当院では開業当初から腫瘍診療に力を注いでおり、腫瘍になってしまった動物たちのために日々努力をしてきました。
現在では日本獣医がん学会認定の獣医腫瘍科認定医Ⅰ種が常駐し腫瘍に苦しんでいる動物たちを全面的にサポートしています。
家族の一員である動物たちに愛のある治療ができるよう、これからも寄り添っていきたいと思います。
年間診察件数(2023年4月~2024年3月)
:5365件 1452例
現在準備中
1. お電話にてご予約ください。診療日時を決定します。
2. 診療の5分前にはご来院ください。もし他の動物病院様で受診された各種データをお持ちの場合にはご持参ください。
診察券のある方は通常どおりホームページからも予約して頂けますが、予約が取りにくい場合はお電話でご予約下さい。
1. お電話にてご予約ください。診療日時を決定します。(※原則紹介状は必要ありません)
2. 当院にご共有いただけますデータがある場合には、飼い主様にお渡しください。
3. 診療・治療を行います。
4. 紹介元病院様へお電話にてご報告を行います。
5. 治療が終了しましたら、継続診療はご紹介元の動物病院様にてお願いさせていただきます。
ただし、必要に応じてご紹介元の動物病院様と連携をとりながら継続治療を担当させていただくこともございます。
腫瘍を治療する上で、大切なことは時間との勝負。誰しもこの事は十分に承知しています。腫瘍を二次診療施設に紹介したくても予約待ちが1ヵ月という話はよくある事で、それで不幸になった多くの症例を知っています。そのような不幸な症例を水際で減らすことができるのは我々一般臨床医です。
腫瘍の診断。それは、治療のための診断です。腫瘍診断はシコリの名前付けではありません。既に転移があり積極的な治療が必要とされない場合、組織診断は必要ない場合もあるかもしれません。治療しないのであればシコリの名前は必要ないのです。
腫瘍の種類を診断する事は簡単です。組織検査をすればはっきりします。腫瘍診療の難しいところは、腫瘍の広がりを把握しそれぞれ動物たちに適した治療方法を選択する事です。
腫瘍治療は、腫瘍の進行の度合(ステージ)によって治療目的が大きく異なってきます。
腫瘍治療は1:根治治療 2:緩和治療 3:対症治療に大きく分類できます。
その治療は病状の進行度(ステージ)で決定します。
腫瘍を根本的に治すことが可能な状況での治療です。腫瘍の根絶を目指す治療であり積極的な治療になります。
腫瘍をなおす事は難しい状況です。生活の質の維持・向上を目的とした治療になります。そのため、積極的な治療を行ったとしても治療前よりも状況を悪化させるべきではないと考えています。あくまでも動物たちが穏やかに過ごせることを主眼に置いています。
腫瘍の末期での治療です。腫瘍に対する治療をすべき状態ではなく、あくまでも動物の状態維持に撤する治療です。
すでに根治ができない動物に、積極的すぎる治療は生活の質を低下させるだけでなく、かえって寿命を縮めてしまう事もあるのです。
治療目的を明確にするために私が実践している手順は以下のとおりです。
Ⅰ.腫瘍がどこまで進行しているか?:進行度評価
Ⅱ.その腫瘍は治るのか?:進行度・腫瘍のキャラクター
Ⅲ.症例は治療に耐えられるのか?:全身状態
Ⅳ.術後病理組織診断結果
<ナビゲーションシステムによる進行度評価>
腫瘍の進行を評価するのは簡単です。なぜなら、既にナビゲーションシステムができているからです。そのナビゲーションとはWHOによるTNM分類システムです。
何を診て何を検査すればよいか全て記載されています。
<TNM分類とは?>
ナビゲーターであるTNM分類はT:原発腫瘍の拡がり、N:領域リンパ節の状態、M:遠隔転移の有無の3つのカテゴリーに分類します。ややこしい腫瘍診断を、合理的かつ簡潔に進行度の評価が可能です。特に皮膚肥満細胞腫・リンパ腫・乳腺腫瘍・口腔内腫瘍・甲状腺腫瘍の5つの腫瘍には病期分類:臨床ステージ分類が可能で治療目的が明確に診断できます。
TNM分類は良性腫瘍には適応されません。なぜなら良性腫瘍は転移をしないからです。しかし、最初から悪性腫瘍と分かって診断を進める事はありません。臨床現場でシコリの診断をする場合、TNM分類を利用する事が最も合理的と考えます。
症例を例にとって説明してみましょう。
写真1
症例:柴犬9歳
1ヵ月前からよだれに血液がまじり口臭にも気付いた。
最近になってシコリに気付き急速に大きくなってきた。
シコリは3.5cmで自潰し、強い感染も起こしています。
表1
表1はTカテゴリーです。原発のシコリを評価します。
シコリが確認できる場合は大きさの評価と骨への浸潤を評価します。
この症例の場合、大きさは3.5cm、X線検査では明らかな骨への浸潤はありません。
以上の結果からT2aと評価できます。
表2
表2はNカテゴリーで所属リンパ節を評価します。口腔内腫瘍の所属リンパ節は下顎および耳下リンパ節です。
症例の下顎リンパ節は患側が2cmに腫大し可動性で少し硬く感じられます。
細胞診を行うと写真3のような所見が得られました。
写真3
リンパ節内にはリンパ球以外に異型を伴う細胞が散在し細胞質には黒色の顆粒も存在しています。
以上の結果からN1bと評価できます。
表3
表3はMカテゴリーで遠隔転移を評価します。所属リンパ節以外のリンパ節および他臓器への腫瘍の浸潤を評価します。臨床の現場ではX線検査・超音波検査を駆使して検査を行います。場合によってはCT検査を行う事で、より正確な評価が可能です。
この症例では明らかな転移所見はありませんでした。
以上の結果からM0と評価できます。
表4
※骨浸潤がある場合はSTAGEⅢ
TNM分類はT2aN1bM0と評価でき、ステージ分類はステージⅢと診断できます。
表5
臨床ステージⅢは表5からも、根治治療は難しい状況にまで腫瘍が進行していることが一目で判ります。TNM分類を活用することによって数量的に腫瘍の進行が評価できるわけです。また、本症例の場合、いち早くリンパ節内の腫瘍浸潤をキャッチできた事は組織検査無しでも悪性腫瘍を診断できたことになります。しかも細胞質内に黒色の顆粒を持つとなれば悪性メラノーマに間違いありません。
TNM分類によって進行度は評価できたわけですが、事実、先ほどの症例に根治の望みがあるかどうかですが、非常に難しいと思われます。なぜなら悪性メラノーマだからです。悪性メラノーマは非常に転移性の強い腫瘍です。これが、扁平上皮癌であれば話は少し変わってきます。扁平上皮癌は強い局所浸潤性を持ちますが遠隔転移性は悪性メラノーマに比べれば低いからです。根治の可能性はまだ残ります。このように腫瘍のキャラクターによっても治療目的は変わります。戦う相手の事は良く知らなければならないわけです。
腫瘍を持っている動物の多くは老齢で、治療をする上での大きなハードルとなります。
いくら積極的な治療を望まれても治療の制限がかかることは良くあります。腫瘍の評価と同時に症例の全身状態も評価が必要です。
外科手術後の病理組織検査は非常に重要で、表6に示すような付加情報を病理診断医に対して要求する必要があります。報告書に記載が無い場合は、その事実が無いのか?それとも診断してないのか?十分なコミュニケーションが必要です。なぜなら、その後の治療に大きく影響をしてくるからです。例えば皮膚肥満細胞腫、組織学的グレードの違いは予後に大きな差をもたらします。まったく治療目的が変わってくるのです。
表6
P:病理学的広がり
切除縁に腫瘍細胞が残っているならば再度外科的切除、局所放射線治療が必要になるかもしれません。
G:組織学的悪性度
前述の症例で考えれば、悪性メラノーマの予後を判断するのに細胞分裂の多さが重要とされています。細胞分裂が盛んであれば、余命を伸ばすには全身治療が必要になります。
L:リンパ管内浸潤
リンパ管内に腫瘍細胞が入り込んでいれば、それだけ腫瘍細胞が周囲組織や遠隔転移を起こしている可能性が増えます。たとえば、炎症性乳癌の組織学的特徴は皮膚リンパ管浸潤です。左右の乳腺乳房は解剖学的には交通が無いはずなのに左右乳房が板状に腫れます。皮膚リンパ管を利用していつの間にか腫瘍細胞が入り込むのです。皮膚には無数に腫瘍細胞のポツポツが出てきます。切除しても翌週にはすぐに再発してきます。リンパ管浸潤はそれだけ恐ろしい所見なのです。
V:静脈内浸潤
静脈内に腫瘍細胞が入り込めば、遠隔転移を起こす可能性があるわけで、当然リンパ管浸潤と同様に補助的な全身治療の適応基準となります。
ご紹介したわんちゃんは、悪性メラノーマでステージⅢに相当し腫瘍の種類からも根本的に腫瘍を治す事は難しい状況です。しかし、治らないからと言って腫瘍をこのまま放置すれば、腫瘍は著しく増大し食事もままならない状況で最期を迎える事となります。腫瘍に対し外科的切除を行って生活の質を維持してあげることができます。
・CBC検査
生化学検査のほか、動物ケンサ株式会社の院内ラボにより凝固系検査や内分泌検査など即日結果を知ることが可能です。それにより、腫瘍によるDICなどの診断がその場でできるため、より精度の高い治療が可能です。
様々な画像診断技術を用いて、腫瘍の位置や大きさ、周囲組織への広がり、転移の有無を確認します。通常CT検査以外の検査は無麻酔で検査が可能です。
・X線検査
特に骨や肺の病変を診断するのに有用です。全身麻酔の必要はなく安全に行える検査です。
・超音波検査
特に腹部の臓器の検査に有用です。脾臓腫瘍や肝臓腫瘍の診断に有用です。
・CT検査
X線を用いて体の断面画像を作成し、腫瘍の詳細な位置や大きさを特定します。
動物の画像診断に特化した会社「AIS(Animals Imaging Service)」と連携し、質の高い画像診断を提供します。
・細胞診
腫瘍から細い針を使用し細胞を採取する検査です。その場で顕微鏡で観察します。これにより、腫瘍の種類や悪性度を大まかに判断することができます。必要に応じて組織診断に進みます。
・組織生検
腫瘍細胞をブロックで採取し、病理組織検査を行います。通常、局所麻酔で実施します。
専門の検査センターへ委託しますので診断結果には1週間程度のお時間を頂きます。
・リンパ腫、・肥満細胞腫、・乳腺腫瘍、・口腔内メラノーマ、・血管肉腫、・組織球性肉腫、・軟部組織肉腫 血管周皮腫 神経鞘腫(シュワノーマ)、・肛門嚢腺癌 アポクリン腺癌、・鼻腔腫瘍、・肺腫瘍、・消化管腫瘍 腺癌 GIST、・甲状腺腫瘍、・インスリノーマ、・卵巣腫瘍、・精巣腫瘍、・骨肉腫、・爪床腫瘍 、・腎臓腫瘍、・膀胱腫瘍、・前立腺腫瘍、・胸腺腫、・眼球腫瘍
堀 英也
日本獣医がん学会獣医腫瘍科認定医I種
出身大学:日本大学
辻堂犬猫病院開設
麻布大学腫瘍科専科研修医(’99~’03)
ご挨拶コメント:
成田 剛
日本獣医がん学会獣医腫瘍科認定医I種
出身大学:北里大学
麻布大学付属動物病院 全科研修医(’03~’05)
麻布大学付属動物病院 腎泌尿器科専科研修医(’16~’20)
ご挨拶コメント: