鼻鏡腫瘍

症例(鼻鏡部扁平上皮癌)

ラブラドール 14歳 避妊メス

経過

突然の鼻出血で来院。外傷歴は無く対症治療で良化するも再度の出血が続いた。

局所所見

外観上の問題も無く出血は鼻腔内である事は明らかであった。
耳鏡を使用しての鼻腔内検査で鼻中隔に糜爛状・腫瘤状病変を認める。

一般身体検査所見

口腔内病変無し。下顎リンパ節・扁桃腫大無し。

細胞診検査

肉眼上腫瘤を確認できましたので鋭匙状のピンセットで細胞を一部採取した。扁平上皮細胞は採取されたが炎症細胞も多い。

画像診断検査

明らかな骨浸潤無し。明らかな鼻腔内奥方向病変は認めない。
その他、転移所見無し。

つぎにどうするのか?

鼻出血の類症鑑別は様々ですが、凝固系の問題ですとか強い感染症など病院内で否定できるものは否定しておきます。しかしながら、最終的にはCT.・MRIなどの断層撮影の必要性は回避できません。本症例の場合、幸いにも直接目視できる部位に病変があったため、出血の原因ははっきりしていました。しかしながら腫瘤の存在部位によっては治療方法が変るためCT検査を依頼しました。
なぜなら、奥方向への浸潤が強ければ外科的に腫瘍をコントロールする事は難しく放射線治療による緩和治療になるからです。先端部分に限局していれば手術での根治治療が可能です。

CT検査結果

CT検査の結果、腫瘤の存在部位は犬歯前方までで奥方向の病変部は確認されませんでした。同時に組織検査も実施しました。

診断

T1N0M0 扁平上皮癌

インフォームドコンセント

以前ご紹介した症例同様、より根治率を上げるのであれば鼻を犬歯部で切除する事が最善だと思われます。しかし、前回の症例と大きく違うは年齢と腫瘍の進行度(大きさと浸潤)です。ラブラドールの14歳と言えば、寿命もほぼ限界に近いと思われますし今回の症例は比較的若々しくはありますが、どんなに頑張っても後1・2年の寿命と考えられます。よってその間、なんとか局所だけでもコントロールし外観的にも今のままの状態を維持する治療をお薦めしました。
扁平上皮癌は非常に浸潤性の強い腫瘍です。特に鼻鏡部に絡み、外観を損なわないための切除方法では確実にがん細胞を残します。よって見た目を損なわないための手術をするには放射線治療併用しなけらばならない事を明確にお伝えしました。

外科治療

鼻鏡部側面からアプローチし鼻中隔を露出します。腫瘤は比較的孤立性に存在しており肉眼上は綺麗に取りきれる状態でした。

腫瘤を露出した状態
※クリックすると画像が確認できます

腫瘤を鼻中隔ごと切除した状態
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左右の鼻腔は開通している
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左が腫瘤、右は中隔の軟骨。
軟骨に腫瘤は固着していたが術野確保のため術中に分離した。
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術直後

経過

術後一週から大学機関での放射線治療を行いました。経過は良好で再発転移もありませんでした。抗がん剤は希望により実施せず、ピロキシカムのみの治療を行いました。
経過は良好でしたが13ヶ月後に老衰にて亡くなりましたが再発転移はありませんでした。

今回の症例は最小限の手術で外観上の変化も無く生涯を全うする事ができました。高齢ですし、がんを完全に治すのではなく、あの世に一緒に持って行ってもらうのも治療のうちだと思っています。そのためには、中途半端な治療が良いと言う事ではなく、あくまで生活の質を落とさない範囲で最大限の治療をすることをお薦めします。