肺リンパ腫

胸部単純レントゲンで肺胞パターンによる不透過性亢進はよく遭遇する問題です。
肺内の病変から直接検体を採取する事は一般的ではないので、通常その他の検査から総合的に診断をして治療的を開始します。
ところが肺炎か?肺水腫か?といくら治療をしても全く改善がみられない場合があり途方に暮れることが稀にあります。
そのような場合、腫瘍疾患を疑う必要性が出てきます。

症例1

シェパード10才 避妊メス

高分化型リンパ腫無治療経過観察中 軽度リンパ節腫大
咳が気になると言う主訴でレントゲン撮影をしたところ後葉領域に病変を確認(写真1・2)
血液検査では異常所見はなし。大学病院での確定診断を薦めるとともに抗生物質の反応をみる事に。

0病日 写真1

0病日写真1

臨床症状の悪化はありませんでしたが画像上不透過性病変が進行しています。(写真3)
基礎疾患の高分化型リンパ腫の肺浸潤を疑い抗がん剤(ロイナーゼ)による治療的診断を行いました。

21病日 写真3

抗がん剤投与で病変は劇的に改善されました。(写真4)。

35病日 写真4

リンパ腫の肺浸潤は通常間質パターンですが、本症例の様な浸潤形態は珍しいと思います。

症例2

コーギー 9歳 避妊メス

呼吸困難で他院を受診し抗生物質とステロイドを投与したところ症状は改善傾向で当院に来院された。

他院初診時のレントゲン所見は肺不透過性病変が肺野全域に広がっていましたが、当院初診時のレントゲン所見(写真5・6)はステロイド療法である程度良化していました。
当院初診時(0病日)のレントゲン所見は肺胞・間質・気管支パターンが混在していますが砲弾状も混在しているように思えます。
ここで、コーギーと言う犬種から考えますとリンパ腫、組織球肉腫の可能性が強く疑われます。コーギーにはこの腫瘍が最近とても多くなってきています。どちらの腫瘍も抗がん剤の投与が必要になりますので、最悪でも細胞診はしたいところです。
本症例は大学病院受診までの間、抗がん剤(ロイナーゼ)投与で治療的診断を行う事としました。

0病日 写真5

0病日写真6

大学受診前の抗がん剤(ロイナーゼ)投与にはほとんど反応を示しませんでした。(写真7)

7病日 写真7

7病日 写真8

大大学病院での診断は組織球肉腫でした。ロムスチンの投与により肺病変は劇的に改善され砲弾状陰影も消失しました。(写真9・10)

21病日 写真9

21病日 写真10

当院でのレントゲン上肺胞パターンの原因の多くは、肺水腫か肺炎であれば大型犬の誤嚥性肺炎、ダックスフントの鼻汁を吸引しての肺炎が目立ちます。それら症例の中に稀にこれらのような腫瘍性疾患が混ざりこんでいますので、心疾患もなく著しい炎症所見もなく治療反応が悪い症例には注意が必要です。また、今回の症例の様にリンパ腫や組織球肉腫を疑うとすればレトリバー系など大型犬種やコーギー、シュナウザーなどは警戒が必要です。