腫瘍症例を頻繁に診察していますと、どのような病気を診ても腫瘍じゃないかと疑ってしまいます。
良く言えば卓越された目、悪く言えばただの思いこみです。この思い込みは非常に危険です。
なぜなら、思い込みであっても裏づけがあれば良いのですが、直感からの思い込みだった場合は、治療の可能性を狭めてしまうからです。
今回は、ネコの胸部レントゲン検査で腫瘍の肺転移を思わず疑ってしまいそうな症例を集めてみました。
10歳のメインクーン未避妊メス
乳腺腫瘍を疑って来院されました。細胞診検査と各種検査を実施しました。シコリはまあ乳腺癌で間違いなく、その状況でのレントゲン検査がこの写真です。(写真1・2)第1印象はとりあえず‘ウワッ‘と言う感じです。粟粒上の転移をする事が多い乳腺腫瘍ですから、もう既に末期に突入してしまったと思ってしまいます。ところが、実際には心疾患が存在しその治療をすることによって肺病変は改善しました。(写真3・4)肺胞パターンと間質パターンが良化し心陰影がはっきり見えています。その後、乳腺腫瘍を切除し1年以上生存することができました。
写真1 初診時胸部レントゲン
写真2 初診時
写真3 治療後胸部レントゲン検査
写真4 治療後
12歳雑種ネコ避妊メス
食欲元気消失を主訴に来院されました。各種検査で白血球上昇と写真5・6のようなレントゲン検査結果となりました。肺野には結節状の病変が散在していてあたかも腫瘍の転移性病変を思わせる画像所見です。念のため原発腫瘍を探しましたが特に異常は見つけられませんでした。
腫瘍疾患も頭の片隅に置きつつ肺炎治療で改善しました。写真7・8
写真5 初診時胸部レントゲン検査
写真6 初診時
写真7 治療開始より4日目
写真8 治療開始より7日目
15歳雑種ネコ去勢オス
数日前からの呼吸状態の悪化と発咳を主訴に来院されました。
呼吸音は非常に悪く努力性呼吸で酸素吸入が必要でした。レントゲン検査では一見粟粒状にも見えますが気管支の輪切り像が気管支沿いに多く描出されています。実際には好酸球性皮膚炎を併発していましたのでアレルギー性気管支炎として治療したところ症状は改善しました。(写真11・12)
写真9 初診時胸部レントゲン検査
写真10初診時
写真11 治療開始より2日
写真12 治療開始より7日
肺の病変は非常に派手でとても目を引きます。症例1の様に腫瘍疾患が重複すれば、思わず末期がん宣告を言い渡しかねません。症例にしてみれば運命の分かれ道です。実はもっと長生きができるのに他の疾患で命を落とすわけですから。