膀胱移行上皮癌

膀胱腫瘍の症例のほとんどは移行上皮癌です。この腫瘍の厄介なところは播種する事です。
腹壁から針を刺すだけでもその経路に播種すると言われています。

症例

11歳スピッツ 去勢雄

数カ月前から存在していた膀胱結石摘出時に膀胱内腫瘤を確認。生検にて膀胱腫瘍と診断し来院。
来院時、膀胱内に2㎝大の腫瘤確認後、存在部位から外科切除は不適応と判断し内科治療で経過観察とした。
当院初診から5カ月後、包皮付近に腫瘤を確認し来院。
腫瘤は腹壁と皮膚にも存在していた。その腫瘤は膀胱切開時の術創と一致していた。細胞診検結果から腹壁及び皮膚に播種した移行上皮癌と診断した。

術前レントゲン検査

皮膚に播種した移行上皮癌

拡大

腹壁に播種した腫瘤

細胞診

膀胱移行上皮癌の腹壁への播種を実際に診たのは、本症例が初めてでした。教科書では、移行上皮癌の手術を行う時は、十分な洗浄と腫瘤を取り扱う外科器具と縫合用の器具は別にすると記載があります。ごもっともです。とある画像診断の勉強会で膀胱腫瘍を診断する場合、組織・細胞が取れなければ経皮的細胞診も有りとの事でしたが今回の様な症例に遭遇すると「やはり細胞診はダメ!」と言わざるを得ません。
本症例は術前検査で膀胱結石が存在していたため手術を実施し、結果的には結石の他にも膀胱腫瘍が存在していました。私も膀胱内の石灰化と膀胱壁の肥厚のある症例に対し膀胱切開を行ったところ膀胱移行上皮癌であった経験があります。たとえ膀胱結石があっても強い膀胱炎所見がある場合は膀胱腫瘍の可能性も考えいったん手術を踏みとどまる勇気が必要だと感じます。ピロキシカムは膀胱炎にも非常に有効ですので、内科療法の反応をみてからの手術をお薦めします。