猫の扁平上皮癌

高齢動物で難治性の病変を持つ場合、腫瘍の存在は常に念頭に置くべきでしょう。
しかし、その事が分かっていながらもつい対症治療で様子をみてしまう時もあります。
腫瘤を形成せずに広がっていく難治性皮膚病変がそれかもしれません。
永遠に引っ掻いているのだから、えぐれるのも仕方ないとも考えられます。

症例

日本ネコ 年齢10歳 未去勢オス 半分野良

経過

1年前から皮膚病があり除々にえぐれ広がってきている。外傷不明

局所所見

顔面皮膚には広範囲に潰瘍病変が存在し、表面のカサブタを除去するとかなり深部まで皮膚が欠損。上方は下眼瞼ぎりぎり、内側は鼻鏡を一部侵食。

一般検査所見

耳下・下顎リンパ節軽度腫脹 軽度口内炎

血液検査所見

エイズ陽性・Felv陰性

画像診断検査

潰瘍病変部骨異常・遠隔転移なし

耳介や鼻鏡周辺に潰瘍性病変を形成する扁平上皮癌が強く疑われます。特に白い毛色の動物では十分注意が必要で約5~13倍の危険率があり、紫外線誘発性が考えられます。
よって確定には組織検査が必要ですが、場合によってはトレパン等のパンチ生検はあまりすすめられません。なぜなら、より深部へ腫瘍細胞を送り込んでしまい、今後の外科治療への障害になる可能性があるからです。本来ならば表層は感染が強いため全層の生検が必要ですが、表面よりやや深めにスクラッチし採取した組織を検査に依頼します。スクラッチとは言っても通常の皮膚検査のようなものではなく、組織をえぐるようになるべく多くの組織を採取します。そのとき採取された組織の一部を院内で細胞診検査し目的の細胞が採取できているか確認すれば診断精度はよりアップします。

細胞診検査

組織診断時に採取した確認のための細胞診です。炎症細胞も多くみられますが中心には異型性があり細胞質が綺麗な水色の上皮系細胞群が認められます。

診断

今回の症例は組織診断では扁平上皮癌と診断され、深層へ浸潤し筋肉も露出している事から進行度はT4N0M0となります。

皮膚扁平上皮癌 進行度

進行度 大きさ 深さ
Tis <2cm 前浸潤性癌 皮内限局
T2 最小限浸潤 大きさ関係無し
T3 >5cm 筋膜への浸潤 大きさ関係無し
T4 すべての大きさ 周囲組織への浸潤

治療

本症例は経過も長く、大きさ深さ共に進行した状態でした。外科単独では局所のコントロールは難しく放射線治療も併用する事にしましたが、半分野良猫という事で術中一回のみの照射と治療は制限されました。

※クリックすると画像が確認できます

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経過

術後1ヵ月後、外観上顔面の部分的な引きつれはあるものの、生活の質は非常に良好。

術後の併用療法は都合により一切実施しませんでしたが、約6ヶ月間再発は認められませんでした。
猫のこのような扁平上皮癌の挙動は、遠隔転移性が少なく拡大切除によって根治が望める腫瘍です。ですから初期での皮膚病との鑑別が重要であり、浅層までの浸潤で腫瘍が発見できれば外科単独でも根治が可能かもしれません。しかも極めて早期であれば、化学療法剤での局所治療や放射線治療のみでも根治が望めます。毛色の白い猫ちゃんは要注意です。