2025年12月21日コラム

「愛犬が肘関節形成不全と診断されたけれど、尺骨骨切り術を受けさせるべきか迷っている」
「尺骨骨切り術がどんな手術なのか知りたい」
「手術後の生活がイメージできず不安に感じている」
飼い主様のなかには、手術の提案をされると、とても大きな決断を迫られているように感じて不安な方もいらっしゃるかと思います。
尺骨骨切り術が必要かどうかは、犬の肘関節形成不全の状態や年齢などによって変わります。
本記事では、犬の肘関節形成不全のしくみと、治療選択肢の一つである尺骨骨切り術について解説します。
最後までお読みいただき、手術を検討する際の材料として役立てていただけますと幸いです。
犬の肘関節形成不全とは、肘の関節をつくる骨のかみ合わせがうまくいかず、痛みが出たり、足をひきずったりする病気です。
ここでは、犬の肘関節形成不全の概要と、飼い主様が日常生活の中で気づきやすいサインを説明します。
肘関節形成不全では、
ということが起こります。
負担が続くと関節内で痛みや腫れを伴い、足をひきずるなどの症状がうまれます。
犬の肘関節形成不全の原因は一つに決まっているわけではなく、
など複数の要因が組み合わさっていると考えられています。
飼い主様が日常生活の中で気づきやすい症状としては、
といったものがあります。
こうした違和感が何日も続いたり、だんだん悪化したりする場合は、早めに受診しましょう。

尺骨骨切り術とは肘関節形成不全の治療として行われる手術の一つです。
この手術では前足の骨のひとつである尺骨をあえて途中で切ることで、肘関節にかかる力のバランスを調整し、痛みや関節への負担を減らします。
今回は、尺骨骨切り術の目的や仕組みなどについて具体的に説明します。
尺骨骨切り術の目的は、肘関節のかみ合わせと力の流れを整えることで、痛みをやわらげ、将来の関節への負担を少しでも減らすことです。
肘関節形成不全の犬では、尺骨が相対的に長かったり短かったりして、肘の内側など一部の関節面に強い力がかかっています。
尺骨骨切り術は、尺骨を途中で一度切り離し、骨同士の突っ張りをやわらげることで、肘にかかる力のかかり方を変えるというしくみです。
ちなみに、切った部分はプレートやピンという道具で固定する場合もあれば、犬の年齢や状態によっては自然な骨の修復力を生かす方法がとられることもあります。
尺骨骨切り術のメリットは、肘関節にかかる力のバランスを整えることで痛みをやわらげ、将来の関節への負担を減らせる可能性がある点です。
「骨を切ってしまうなんて、本当に大丈夫なのだろうか」と不安に感じる飼い主様も多いと思います。
しかし、獣医師の管理下で計画的に行われる尺骨骨切り術は、犬の治癒力を利用した安全性の高い治療法のひとつです。
尺骨骨切り術で切るのは、前足の骨のひとつである尺骨のあらかじめ計画された一部分のみで、術後は犬自身の骨の修復力によって、時間をかけて新しい骨が形成されていきます。
この骨の再生過程を利用することで、無理なく関節の力のかかり方を調整できるのがこの手術の特徴です。
一方で、どの犬にも同じように効果が期待できるわけではないため、獣医師は適応かどうかケースごとに見極めます。
尺骨骨切り術が適応されるのは、画像検査などで「骨のアンバランスが痛みの大きな原因になっている」と考えられる場合です。
一般的には、
というケースで、獣医師が候補として尺骨骨切り術を検討します。
炎症がかなり進行している場合や、他の持病がある場合には、別の手術方法や内科的治療の組み合わせが選ばれることもあります。

手術後の生活とリハビリで気をつけたいことは、肘にかかる負担をできるだけ減らしながら、獣医師の指示にそって少しずつ普段の動きを取り戻していくことです。
多くの犬で術後およそ8週間までは、ケージやサークルでの安静やトイレ程度の短い歩行が中心になります。
歩き方が安定してくるまでには2〜3か月ほどかかることが多いため、術後3か月くらいを目安に、少しずつ運動量を増やしていく流れです。
飼い主様は、「立ち上がりやすくなった」「散歩の途中で座り込む回数が減った」といった変化に気づくことが多いです。
一方で、術後の回復のスピードや最終的なゴールは、犬の年齢や体格、肘関節の傷み具合、すでにどこまで病状が進んでいるかによって変わります。
若くて関節の変化が比較的軽い犬では、よりはっきりとした改善が見られることもありますが、変形が強い犬では「完全に手術前のような動きに戻す」というよりも、「痛みを和らげて生活しやすくする」ということがゴールになる場合もあります。
飼い主様が早く元気な姿を見たいと感じることは自然なことです。
ただ、退院直後から急に散歩量や遊びを増やすと、痛みのぶり返しや思わぬケガにつながるおそれがあります。
手術後の犬には、
が大切です。
飼い主様が、愛犬をどの程度運動させたらいいか迷ったときには、獣医師と具体的な目安を相談してからリハビリを進めましょう。

犬の肘関節形成不全は、成長期の骨のバランスの乱れから始まり、放置した場合には長く続く痛みや変形につながる可能性がある病気です。
尺骨骨切り術を含む治療の選び方や、どこまで改善を目指すかは、犬の年齢や性格、現在の関節の状態、ご家庭の生活スタイルによって変わります。
飼い主様は「手術を受けさせるかどうか」という二択ではなく、「愛犬と家族にとっていちばん納得できる選択は何か」を獣医師と一緒に考えていきましょう。
当院は整形外科の診療に力を入れております。
犬の肘関節形成不全やその治療について不安な点がありましたら、いつでもご相談ください。
飼い主様と愛犬が少しでも安心して暮らしていけるよう、一緒に治療方針を考えてまいります。
神奈川県藤沢市の動物病院
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