重積

短期間に3例遭遇した「まさか」の連続症例から

腸重積は、腸の一部が別の腸管の中に入り込んでしまう病気です。
激しい嘔吐や腹痛を伴うこともありますが、症状がはっきりしないケースもあります。
腸重積は決して毎日のように見る病気ではありません。
筆者自身も、これまでの診療経験の中で数例しか遭遇していませんでした。
今回、わずか3か月の間に3例の腸重積症例が続けて来院。
そしてそのすべてに、腫瘍、あるいは腫瘍を強く疑う病変が関与していました。
この経験から、「中高齢の腸重積には腫瘍が隠れている可能性がある」という重要なポイントが見えてきました。
本稿では、その臨床経験をもとに、腸重積と腫瘍性疾患との関連についてお伝えします。

症例1

ラブラドールレトリバー 12歳 避妊メス

12歳のラブラドールレトリバーの避妊メスが、突然の食欲不振を主訴に来院しました。
超音波検査を実施したところ、腸重積が確認されました。
手術で腸を確認すると、腸が内側に入り込んでいる状態でした。
まずは元の位置に戻す処置を行いましたが、その際、腸の中に小指ほどのポリープがあることが分かりました。
整復後、腸切開および腸管切除を行い、病変を摘出しました。

腸重積のエコー写真
 
 
ラブラドールレトリバーの腸重積の術中写真

腸重積
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ラブラドールレトリバーの腸重積の術中写真

整復後
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腸重積で切除した腸管

切除標本
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症例2

10歳のロットワイラーの避妊メスが、慢性的な下痢と食欲低下を主訴に来院しました。
検査を進めたところ腹腔内に腫瘤が確認され、全身状態の悪化も認められたため、緊急開腹手術を実施しました。
開腹すると、重積した腸管内に腫瘤が存在しており、整復は困難な状態でした。
そのため、重積部位を含めて腸管切除を行いました。
腫瘍が腸を内側へ引き込むことで腸重積が生じた可能性が高いと考えられます。

ロットワイラーの腸重積の術中写真

重積の整復は出来なかった
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ロットワイラーの腸管内の腫瘤

腸管内の腫瘤
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症例3

3つ目の症例は11歳の避妊済みメスの日本猫です。
本症例は慢性腎不全に伴う貧血と食欲低下で当院を受診しました。
診察時の触診で腸重積を確認。
手技による整復は可能でしたが、当初は1日2回の整復が必要な状態でした。
その後、貧血の改善とともに重積は起こらなくなりましたが、整復部位には帯のように細くなっている箇所が残っていました。
画像所見などから、腺癌などの腫瘍性病変の存在が強く疑われました。

腸管狭窄のエコー写真

重積はないが一部狭窄している

 
 

臨床的な考察

人の医療では、成人の腸重積の多くが腫瘍やポリープなどの器質的疾患に関連していると報告されています。
今回の3例もすべて10歳以上の中高齢であり、腫瘍性、あるいは腫瘍を強く疑う病変を伴っていました。
腫瘍が腸を内側へ引き込むことで、腸重積が引き起こされた可能性が考えられます。
つまり、中高齢の犬や猫で腸重積が認められた場合は背景に腫瘍が存在しているかもしれません。

腸重積の治療とポイント

腸重積の治療は、原因や腸の状態によって大きく変わります。
軽度で腸の傷みが少ない場合には、手技によって元の位置に戻せることがあります(症例3)。
しかし、腸の中に腫瘍などの病変が存在している場合には、単に戻すだけでは再発のリスクが高くなる点には注意が必要です。
そのため、原因となっている部分を含めて腸管を切除する必要があります(症例1・2)。
また、切除した組織は必ず病理検査に提出し、腫瘍の有無や性質を確定することが重要です。
腸重積を整復してもらった場合、「元に戻れば大丈夫」と安心してしまうかもしれません。
しかし、中高齢の犬や猫では、その背景に腫瘍が隠れている可能性があります。
動物病院で「なぜ起きたのか」をきちんと調べてもらうことが大切ですね。
下痢や嘔吐、食欲不振といった症状が長引く場合にも、単なる胃腸炎ではなく、消化管腫瘍が関与しているかもしれません。

まとめ

腸重積は「整復できれば終わり」という疾患ではありません。
とくに中高齢の犬や猫では、背景に腫瘍性病変が存在する可能性があります。
触診、画像検査、必要に応じた外科的対応と病理検査を通じて、原因を見極めることが重要です。

「急な食欲不振」「慢性的な下痢」「元気がない」などの症状が続く場合には、消化管腫瘍が関与している可能性も否定できません。
気になる症状があれば、早めの受診をおすすめします。