犬の肘関節は、上腕骨(前足の付け根の骨)と橈骨・尺骨(前腕の骨)で構成されており、通常は靭帯によってしっかりと固定されています。
しかし、強い衝撃や回転力が加わると、関節がはずれてしまうことも。
犬の上腕骨の内側には大きな突起があり、内側脱臼は比較的起こりにくい構造をしています。
そのため、犬の肘関節脱臼の92〜100%は外側脱臼(外側にずれる)です。 肘関節が脱臼すると、犬は足を地面につけずに浮かせたまま歩くことが多く、強い痛みを伴います。
脱臼が長時間続くと関節の変形や関節炎を引き起こすため、できるだけ早く適切な治療を受けることが大切です。
などによって発生することが多いです。
また、関節がもともとゆるい犬種は、少しの衝撃でも脱臼しやすい傾向があります。
などに見られることが多くあります。
これらの犬種は活動的で筋肉量が多いため、強い力が関節にかかることが理由の一つです。
年齢としては3歳以上の成犬で発生しやすいとされています。
若い犬は関節が柔軟なため、外傷を受けると骨折しやすいのに対し、成犬やシニア犬は脱臼の割合が高くなるのが特徴です。
などが挙げられます。
脱臼したまま時間が経った場合には、関節が硬くなり、動きが悪くなるなどの症状も見られます。
脱臼を放置すると慢性的な痛みや関節炎につながるため、早めの治療が大切です。
治療の選択肢は、脱臼の程度や発生からの時間によって異なります。
まず麻酔をかけて関節の位置を戻したのちに「キャンベル試験」という肘関節の靭帯の損傷を評価する触診を行い、手術の必要性と方法を検討します。 治療方法についてそれぞれ詳しく説明します。
麻酔をかけて関節を元の位置に戻し、その後包帯を装着します。
術後4〜6週間程度は包帯交換と運動制限が必要です。
靭帯が断裂している場合や、骨折を伴う場合には手術が必要です。
インプラントを用いて断裂した靭帯を再建します。
術後4〜6週間程度は包帯交換と運動制限が必要です。
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などが挙げられます。
逆に、早期に脱臼を整復して関節が安定している場合は、手術をせずに治療できることもあります。
肘関節脱臼は発生頻度が低いため、専門医による診断と適切な治療が重要です。
手術後は4〜6週間程度の運動制限が必要です。
また、術後は一定期間、包帯などの外固定を行います。
徐々に固定強度と運動制限を減らして日常生活に戻していきます。
この間、散歩はリード付きの短時間のみに制限し、室内でも飛び跳ねたり、走り回ったりしないように注意しましょう。
また、術後の経過によってはリハビリテーションを行うことで、前足の機能回復がスムーズになることもあります。
の3つの骨で構成され、靭帯や筋肉によって安定しているのが正常です。
しかし、何らかの異常によって肘関節が適切に形成されず、脱臼した状態で生まれてくることがあります。
この疾患は比較的まれですが、小型犬を中心に発生することが報告されています。
生後3〜6週齢の子犬の歩行に異常がみられることで発覚することが多いです。
先天性肘関節脱臼は片側の前足だけに起こることもあれば、両側に発生することもある病気です。
脱臼の程度によっては、痛みを伴わない場合もあります。
しかし、脱臼を放置すると関節の変形が進行し、将来的に運動機能に大きな影響を与える可能性があるため注意が必要です。 先天性肘関節脱臼は、関節のどの部分に異常があるかによって3つのタイプ に分類されます。
上腕橈骨型は、橈骨の頭が外側または後方に脱臼していて、尺骨が正常な位置にある状態です。
上腕尺骨型は尺骨が外側に回転または脱臼していて、橈骨の位置は基本的には正常な状態です。
上腕橈尺骨型は、橈骨と尺骨の両方が関節から完全に外れている重度の脱臼を指します。
先天性肘関節脱臼のはっきりとした原因は分かっていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
さまざまな要因が複合的に作用し、先天性肘関節脱臼を引き起こすため、それぞれ解説していきましょう。
特定の犬種で発生しやすいことから遺伝の影響が疑われます。
若齢期に脱臼がみつかった場合には、同腹犬に同様の病気がないか確認するといいでしょう。
生まれつき肘関節の骨の形が正常に発達せず、関節が適切に形成されない場合、脱臼が発生しやすくなります。
特に、滑車(関節のかみ合わせ部分)や靭帯の形成不全も原因の一つです。
筋肉は関節を伸ばす伸筋と、曲げる屈筋がバランスをとりながら動いています。
これらの筋肉の発達が不均衡だと、関節にかかる力のバランスが崩れ、脱臼しやすくなることがあります。
などが挙げられます。
初期の場合は症状が目立たず、成長とともに悪化することもあります。
放置すると慢性的な関節炎を引き起こし、将来的に痛みや運動障害の原因となるため、早期発見と治療が重要です。
タイプ毎の症状の傾向として、タイプⅠ型は症状が軽いことが多いのに対し、タイプⅡ型とⅢ型は重度の歩様異常が生じやすいとされています。
治療方法は、脱臼のタイプや程度、犬の成長段階によって異なります。
があります。 予後は早期治療であれば比較的良好ですが、先天性疾患は慎重な経過観察が必要です。
などの方法を組み合わせて治療します。
タイプⅡ型は若齢期の早い段階で症状が生じやすいので、早期治療が重要です。
早期の外科療法により良好な機能回復が期待できます。
ただし、一部の報告では術後の再脱臼率が40%程度とされており、慎重な経過観察が必要です。
などさまざまな術式を併用して関節を安定化させます。
術後も完全な機能回復は難しく、関節可動域の制限や慢性的な関節炎のリスクが高いとされています。
手術後は4〜6週間程度の運動制限が必要になります。
また、術後は一定期間、包帯などの外固定を行います。
この間、散歩はリード付きの短時間のみに制限し、室内でも飛び跳ねたり、走り回ったりしないように注意しましょう。
術後も関節の可動域の低下や変形性関節症のリスクがあるため、定期的な検診とリハビリテーションが大切です。