膝蓋骨外方脱臼

膝蓋骨外方脱臼ってなに?

膝蓋骨外方脱臼は、犬の膝関節にある膝蓋骨(膝のお皿)が本来の位置から外側にずれてしまう状態を指します。
膝関節の外側には、

  • 長趾伸筋腱
  • 膝窩筋腱
  • 外側側副靱帯

といった腱や靭帯などがたくさん通っています。
膝蓋骨が外側にずれると、これらの組織が傷つきやすくなるということですね。
そのため、膝蓋骨外方脱臼は内側への脱臼よりも症状が重くなりやすい傾向があります。
痛みや歩き方の異常が目立つほか、膝関節が腫れたり、時間とともに関節炎に進行するリスクも高まります。

膝蓋骨外方脱臼の原因は?どんな病気?

膝蓋骨外方脱臼が生じるはっきりとした原因はまだわかっていません。
生まれつきの骨格の異常や、成長期の骨の発達バランスの乱れが関係していると考えられています。
特に膝関節を安定させる筋肉や骨の構造がずれていると、膝蓋骨が本来の位置に留まりにくくなり自然と外側へずれてしまいます。
生まれつきの骨格異常は遺伝的な要因が関係していることも多いため、繁殖の際は注意する必要です。
また、膝蓋骨外方脱臼は骨格の異常以外にも外傷や事故がきっかけで発症することもあります。

膝蓋骨外方脱臼にかかりやすい犬種は?

膝蓋骨外方脱臼は、大型犬に多くみられる病気です。
ただし、小型犬でも発症することがあります。
とくに注意が必要とされるのは以下の犬種です。

  • ラブラドール・レトリバー
  • シベリアン・ハスキー
  • アラスカン・マラミュート

これらの犬種では、膝関節の構造や骨の形態に特徴があり、脱臼が起こりやすいとされています。
膝蓋骨外方脱臼は骨格の問題が関与するため、繁殖の際には遺伝的な背景を考慮したチェックが大切です。

膝蓋骨外方脱臼はどうやって診断するの?

膝蓋骨外方脱臼の診断には、主に以下の方法が用いられます。

触診

膝蓋骨外方脱臼は基本的には触診で診断可能です。
立った状態あるいは横になった状態で膝蓋骨を手で押すことで、脱臼の方向と程度を確認します。
膝蓋骨外方脱臼では関節が腫れやすく、重度になると整復が困難になることもあります。
診断の際には、内方脱臼と同じようにグレード分類が用いられます。

膝蓋骨脱臼のグレード分類

グレード1 膝蓋骨を触診で容易に外すことができるが、はなすと自然にもとの位置に戻る
グレード2 膝関節の屈伸で容易に膝蓋骨が外れる
グレード3 膝蓋骨は常に脱臼しており、触診で整復することができる
グレード4 膝蓋骨は常に脱臼しており、触診で整復することができない

レントゲン検査

レントゲン検査では、以下のような異常がないかを確認します。

  • 骨の形態異常
  • 関節炎の有無
  • 関節内に水(関節液)がたまっていないか

膝蓋骨外方脱臼では、関節に炎症が起きて水がたまるケースも多く、画像検査での評価は重要です。

CT検査

レントゲン画像だけではわかりづらい骨の異常が疑われた場合には、CT検査を行うことがあります。
膝蓋骨外方脱臼では、次のような骨の変形を伴うことがあります。

  • 外反変形(太ももの骨が外側に曲がる)
  • 回旋変形(太ももの骨がねじれる)

とくに回旋変形は、レントゲンでは評価が難しいため、立体的に骨の構造を確認できるCTが有効です。

膝蓋骨外方脱臼の治療方法は?

膝蓋骨外方脱臼の治療は、「保存療法」と「外科療法」に分けられます。
どの治療になるかは、

  • 症状の程度
  • 年齢
  • 膝関節の機能障害の有無
  • 体格

などを総合的に考慮して決定されます。
膝蓋骨外方脱臼は、膝関節に炎症を起こしやすく、内方脱臼よりも進行が早いこともあるため、多くの場合は外科的な治療が必要です。

保存療法

保存療法では、次のような対応が行われます。

急性期(痛みがある時期)

急性期では運動を控え、消炎鎮痛剤などの内服で痛みや炎症を抑える治療が必要です。

慢性期(症状が落ち着いている時期)

慢性期では体重管理や生活環境の見直しが大切になります。
たとえば、床を滑りにくくする、爪や足裏の毛をこまめに整えるといった工夫が必要です。

外科療法

外科的な治療は、膝蓋骨を正しい位置に安定させることを目的に、複数の手術方法を組み合わせて行います。

犬の脚はもともとO脚ぎみで、膝蓋骨が内側に脱臼しやすい構造です。
にもかかわらず外側に外れるということは、それだけ膝関節に複雑な異常がある可能性が高いということです。
そのため、手術内容は症例に応じて慎重に選ぶ必要があります。

代表的な手術方法には、以下のようなものがあります。

 

外側支帯の切離

外側支帯とは膝蓋骨の外側にある関節包や靱帯のことです。
これが縮んで厚くなっている場合、膝蓋骨を外へ引っ張る原因になります。
外側支帯を一部切離することで、膝蓋骨にかかる外向きの力を弱めることができます。

内側支帯の縫縮(膝蓋骨の内側の緩んだ組織を縫い縮める)

膝蓋骨の内側の組織が緩んでいる場合は、それを縫って縮めることで、膝蓋骨を内側に引き戻す力をつくります。

内側支帯の縫縮の図解イラスト

滑車溝形成術

膝蓋骨がはまる大腿骨の「滑車溝」が浅いと、膝蓋骨が脱臼しやすくなります。
この溝を深くすることで、膝蓋骨の安定性を高めます。
方法は大きく2種類です。

  • 軟骨を残したまま行う手技(楔状造溝術、ブロック状造溝術)
  • 軟骨ごと削って深くする方法(滑車切除術)
楔状造溝術の図解イラスト
ブロック状造溝術の図解イラスト
滑車切除術の図解イラスト

脛骨粗面転位術

膝蓋骨とつながる膝蓋靱帯が付いている「脛骨粗面」の位置が外向きすぎると、膝蓋骨が外に引っ張られてしまいます。
脛骨粗面転移術ではこの部分の骨を内側に移動させて固定することで、膝蓋骨がまっすぐ安定するように調整します。
さらに、膝蓋骨をより深い溝に誘導するために、やや遠位側(下方)にずらす場合もあります。

膝蓋骨–膝蓋靭帯–脛骨粗面の構造図解イラスト
膝蓋骨外方脱臼の図解イラスト
脛骨粗面転位術の図解イラスト

膝蓋骨脱臼防止用スクリュー

膝蓋骨が外側に脱臼する場合、大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)も一緒に外側へ引っ張られてしまいます。
膝蓋骨脱臼防止用スクリューはこうした筋肉のずれを防ぐために、大腿骨に設置するスクリューです。

このスクリューを設置する方法はとくに次のようなケースで行われます。

  • 膝蓋骨が外側に脱臼している
  • 成長途中の若い犬で、他の骨手術(滑車溝形成術や脛骨粗面転位術など)を避けたいとき

とくに若齢の犬では、骨の成長板を傷つけないよう慎重に治療法を選ぶ必要があります。
そのため、骨を削ったり移動したりする術式が難しい場合は、このスクリュー法が有効な選択肢の一つです。


もっと詳しく!!/矯正骨切り術(準備中)

*クリックすると詳細が表示されます。

 

膝蓋骨と大腿四頭筋の横断面イラスト
膝蓋骨外方脱臼と脱臼防止用スクリューの図解イラスト

膝蓋骨外方脱臼と診断されたら手術した方がいいの?

手術が必要かどうかは、脱臼の程度(重症度)や症状の有無によって異なります。
軽度で症状がまったく出ていない場合は、経過を見ながら様子を見ることもあります。
ただし、痛みや跛行(足を引きずる)といった症状がある場合や、骨の変形が進む恐れがある場合には、早期の手術がおすすめです。

膝関節の外側には、内側よりも多くの腱や靭帯が通っています。
そのため膝蓋骨が外側にずれると、これらの組織を傷つけてしまうリスクが高くなるのです。
このことから、膝蓋骨外方脱臼は内方脱臼に比べて症状が目立ちやすく、関節の炎症や変形が進みやすいため、手術が必要になるケースが多くなります。

とくに成長期の犬では、脱臼を放置することで骨格の変形が進んでしまう可能性があるため、早めの手術が重要です。
適切なタイミングで手術を行うことで、関節の摩耗を防ぎ痛みを軽減し、将来的な歩行の安定性を保てる可能性が上がります。

膝蓋骨外方脱臼の成功率ってどのくらい?

グレード1〜3の膝蓋骨外方脱臼に対して手術を行った場合、多くのケースで良好な経過が得られます。
とくに小型犬での手術では、予後が安定していることが多いです。

ただし、次のようなケースでは注意が必要です。

  • 大型犬での膝蓋骨外方脱臼:内方脱臼の小型犬に比べて、手術の難易度や回復までの時間がかかる傾向がある
  • 重度の脱臼や合併症がある場合:膝窩筋腱や外側側副靱帯の損傷をともなっている場合は、回復に時間がかかることがある

また、手術後も再発の可能性がゼロとは言えないため、術後の管理がとても大切です。

膝蓋骨外方脱臼の手術のあとの管理はどのくらい必要なの?

手術後のケアは、愛犬の回復を左右する大切なポイントです。
一般的には、次のような流れで管理します。

  • 術後6週間程度の運動制限
  • 清潔な環境の維持
  • 少しずつ活動量を増やしていく
  • 定期的な通院と検査

術後のケアをしっかり行うことで、再発のリスクを減らし、スムーズな回復につながります。