いわゆる手首である手根関節は、
から構成される関節です。
手根関節は大きく以下の三つに分類されます。
それぞれの関節の可動範囲は全体の可動範囲のうち
という内訳です。
手根関節には靭帯が付着しています。
靱帯は、
の4つの区画に分けることができます。
この区画のうち、どこを損傷したかによって手術の適応や術式が決まります。
手根関節の脱臼・亜脱臼というケガをご存知でしょうか?
脱臼とは関節が完全に外れること、亜脱臼とは部分的に外れるケガのことです。
手根関節には、関節を安定させている靱帯が存在します。
何らかの原因でこの靭帯が損傷することで、関節がずれて外れることがあります。
手根関節の脱臼・亜脱臼を起こした場合、損傷した靭帯によって症状も変わってきます。
人間で言う手のひらである掌側面の靭帯を損傷した場合には、外傷後に前肢を完全につかなくなることがほとんどです。
ケガをしてすぐは、多くの場合前肢を使用しないので、見た目の異常は見られにくいです。
しかし、1週間ほど経過すると手根関節の過伸展が目立つようになります。
過伸展とは、手根関節は通常まっすぐな状態(完全伸展位)までしか伸びませんが、それを越えてさらに伸びた状態です。
過伸展が起こると手根関節を地面につける、いわゆるベタ足が見られます。
また、靭帯の損傷は、外傷ではなく特発性または免疫介在性の多発性関節炎が原因で起こることもあります。
この場合は、外傷がなくても時間をかけて手根関節の過伸展が見られるのが特徴です。
内側もしくは外側の靭帯を損傷すると、外傷後に患肢をかばって歩くようになります。
ケガをしてから時間が経過しても、ケガをした足の使用が改善しないことが多いです。
手根関節の脱臼・亜脱臼は多くの場合、落下や転倒などの外傷が原因です。
ただし、特発性または免疫介在性の多発性関節炎が背景にある場合は、外傷がなくても徐々に脱臼・亜脱臼が起こることがあります。
手根関節の脱臼・亜脱臼は外傷が原因の場合には、年齢や犬種に関係なくさまざまな犬と猫で発生します。
一方、特発性の多発性関節炎はシェットランド・シープドッグに、免疫介在性の多発性関節炎はミニチュア・ダックスフントに多くみられる傾向です。
手根関節の脱臼・亜脱臼の診断は、主に触診とレントゲン検査を中心に行います。
靱帯損傷による亜脱臼は、通常のレントゲン撮影では骨どうしの位置関係に変化が生じにくく、診断がつきにくいのが特徴です。
そのため、触診で手根関節に伸展ストレスや内反・外反ストレスを加えて関節に不安定がないかを確認します。
また、手根関節の脱臼が生じている場合には、関節周囲が腫れたり、関節がうまく動かなくなったりすること(関節可動域制限)があるため、腫れや動きの確認も行います。
脱臼があきらかな場合には、手根関節を構成する主要な3つの関節のどこに損傷が生じているかがレントゲンで確認可能です。
靱帯損傷による亜脱臼の場合は、関節周囲が腫れているのを確認した上で、関節にストレスをかけてどの部分の靱帯が損傷しているかを判断します。
背側面の靱帯損傷をのぞいて、多くの手根関節の脱臼・亜脱臼では基本的に手術が必要です。
橈骨手根関節の脱臼には、橈骨から中手骨にかけての骨をプレートで固定する「全手根関節固定術」が行われます。
全手根関節固定術は、骨どうしが将来的につながるように海綿骨という骨の移植を行う手術です。
この方法では関節の動きは失われますが、ほとんどの犬は通常に近い歩行が可能です。
手根間関節や手根中手関節に問題がある場合は、可動域を一部残す「部分的手根関節固定術」も選択されます。
部分的手根関節固定手術は、手根関節の動きはある程度温存できますが、全手根関節固定術よりも難易度の高い手術です。
内側または外側面の靭帯を損傷した場合には、靭帯の再建手術を行います。
また、特発性または免疫介在性の多発性関節炎によって手根関節の脱臼・亜脱臼が生じた場合には、装具を使用して安定化を図ることが多いです。
とくに免疫介在性の多発性関節炎による関節の脱臼・亜脱臼に対する外科手術は禁忌とされているため、注意が必要です。
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