膝腫瘍

滑膜肉腫(膝腫瘍)とはどんな病気?

滑膜肉腫は、関節を包む「滑膜」やその周囲の組織から発生する悪性腫瘍です。
犬ではまれな腫瘍ではありますが、進行性が高く、骨や関節へ浸潤しながら広がっていく特徴があります。

滑膜肉腫の症状は、初期には

  • 足をかばう
  • 軽い跛行

など、整形外科疾患と非常によく似た症状を示します。
滑膜肉腫は靱帯損傷や関節炎と誤認されやすい腫瘍の一つです。
発見が遅れると骨破壊や強い痛みを伴い、治療が難しくなるケースも少なくありません。

滑膜肉腫の検査と診断

診断では、整形外科的な検査に加えて次のような検査を組み合わせて行います。

  • 触診・整形学的検査
  • レントゲン検査
  • 関節液検査
  • 超音波検査
  • 組織検査(生検)

初期のレントゲン検査では明らかな骨の異常が写らないことも多いです。
確定診断には組織検査(病理検査)が最も重要になります。

滑膜肉腫の治療方法

滑膜肉腫の治療は進行度に応じて、主に次の方法を組み合わせて行います。

  • 摘出手術
  • 断脚手術
  • 抗がん剤治療
  • 緩和治療

腫瘍が局所に限局している場合は、腫瘍の摘出が検討されます。
しかし、骨や関節へ強く浸潤している場合には、断脚手術が選択されるケースも少なくありません。
断脚手術後は再発や転移のリスクを抑える目的で抗がん剤治療を併用することがあります。

滑膜肉腫の予後と余命

滑膜肉腫は悪性度が高く、再発や転移を起こしやすい腫瘍です。
予後は発見時の進行度や転移の有無によって大きく左右されます。

滑膜肉腫が早期に診断され十分な外科切除が行えた場合には、一定期間の良好な生活の維持が期待できるケースもあります。
一方で、診断が遅れた場合には治療の目的は

  • 延命と痛みの緩和
  • 生活の質の維持

が中心となります。

【症例紹介】7歳 雑種犬の滑膜肉腫の治療経過

ここからは実際に当院で治療を行った症例をご紹介します。
患者は7歳の雑種犬のメスで、約1か月前から続く左後肢の跛行を主訴に来院されました。
来院時にはすでに左後肢を完全に挙上して歩いており、筋肉量の著しい低下も認められました。

初診時の診断経過

初診時の触診および検査では、下顎リンパ節や扁桃の腫大は認められず、前十字靱帯の部分断裂が最も疑われる所見でした。
リウマチ因子検査や関節液検査でも、明らかな炎症や腫瘍を示唆する異常はありません。
また、初診時のレントゲン検査でも、明確な骨の異常所見は確認されませんでした。

膝腫瘍のレントゲン写真
膝腫瘍のレントゲン写真

第1回手術と所見

これらの所見をふまえ、前十字靱帯断裂に対する外科治療として関節外法を実施しました。
手術中に関節鏡で内部を確認したところ、通常では見られない赤色の結合織様の異常増殖が認められました。
靱帯は部分断裂しており脆くなっていましたが、この時点では組織検査は実施していません。

前十字靭帯断裂の術中写真

※クリックすると画像が確認できます

前十字靭帯断裂手術後のレントゲン写真

術後経過と再評価

手術後2か月が経過しても左後肢の挙上は改善せず、跛行が続いていました。
関節部の腫脹は軽度であったものの、再度撮影したレントゲン検査で大腿骨外側顆の骨吸収像を確認。
通常の術後変化としては不自然な所見が認められました。

第2回手術と確定診断

この異常所見を受けて再度関節内の病変部を切開し、生検を実施。
病変はさらに増殖しており、大腿骨遠位部の骨表面にも明らかな浸潤が認められました。

組織検査の結果、滑膜肉腫(Synovial Sarcoma)と確定診断。
核分裂像および細胞異型度は中等度で、悪性腫瘍と判断されました。

関節内の病変部位を採取する手術写真

※クリックすると画像が確認できます

関節内の病変部位を採取する手術写真

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最終的な治療と経過

最終的な治療として、後肢断脚術と抗がん剤による化学療法を実施しました。
断脚後、患者は痛みから解放され、日常生活に必要な動作も取り戻すことができました。
生活の質は大きく改善したと言えます。

まとめ

滑膜肉腫のように、初期症状が靱帯損傷や関節トラブルとよく似ている腫瘍では、初期対応の判断がその後の治療と予後を大きく左右します。
飼い主様は「なんとなく気になる」「いつもと違う」という小さな違和感を見逃さないようにしましょう。
必要な検査を適切なタイミングで実施することが、より良い治療につながります。

愛犬の跛行や足の違和感が長引く場合は、「年齢のせい」「靱帯の問題だけ」と自己判断せず、できるだけ早期にご相談ください。