
鼻鏡扁平上皮癌は、犬の鼻の先端にある「鼻鏡」と呼ばれる部分の皮膚から発生する悪性腫瘍です。
扁平上皮とは皮膚や粘膜の表面を覆う細胞です。
鼻鏡扁平上皮癌は、鼻鏡の扁平上皮ががん化することで発症します。
この腫瘍は局所浸潤性が非常に強いという特徴があります。
時間の経過とともに周囲の皮膚や鼻腔内へと深く広がっていくため注意が必要です。
鼻鏡扁平上皮癌は早期であれば外科手術による根治が期待できます。
ただし、進行すると治療の選択肢が大きく限られてしまう怖い腫瘍です。
鼻鏡扁平上皮癌では、次のような症状がみられることがあります。
初期の段階では「ただの鼻炎かな?」と思われやすく、発見が遅れてしまうケースも少なくありません。
しかし、腫瘍が大きくなるにつれて呼吸や採食に直接影響する重い症状が現れてきます。
鼻鏡扁平上皮癌の診断のためには、まず触診で鼻鏡の硬さや、腫瘤の有無を確認する必要があります。
その後レントゲン検査や超音波検査で腫瘍の広がりや骨への浸潤、遠隔転移の有無が判断されます。
腫瘍がある場合には細胞診を実施し、腫瘍細胞の性質を調べることで扁平上皮由来であるかどうかを確認可能です。
さらに、外科手術を検討する場合にはCT検査が非常に重要です。
CTでは腫瘍の深さや広がりを三次元的に評価され、切除可能かどうかの判断材料になります。
現時点で根治が期待できる鼻鏡扁平上皮癌の治療法は外科手術のみとされています。
鼻鏡の切除によって腫瘍を完全に取り除くことができれば、長期生存が期待できるケースも。
ただし、外科手術だけで再発リスクがゼロになるわけではないため、
などを併用しながら、再発・転移の予防や進行抑制を行う場合もあります。
外科手術は鼻の切除という見た目の変化を伴う治療です。
外科手術を受ける際は手術の意味や生活の変化についてご家族の理解がとても重要になります。
鼻鏡扁平上皮癌の予後は、発見された時点での進行度に大きく左右されます。
腫瘍が局所にとどまっている早期の段階で完全切除が可能な場合には、1年以上、場合によっては数年単位の生存が期待できることもあります。
一方で、リンパ節や肺などに転移している場合には、完治は難しい可能性が高いです。
その場合の治療の目的は延命と生活の質の維持が中心となります。
ここからは、実際に当院で治療を行った症例をご紹介します。
患者は11歳のラブラドール・レトリバーの避妊メスで、「1か月ほど前から鼻水とくしゃみが続き、最近になって鼻の中にできものが見えるようになった。呼吸も少し苦しそう」という主訴で来院されました。
診察では、右側の鼻腔内に腫瘤を確認し、鼻鏡は触ると硬く、正常な可動性が失われている状態でした。
反対側の鼻腔は正常で、口腔内やリンパ節には明らかな異常は認められません。

レントゲン検査および超音波検査では、骨への浸潤や遠隔転移はこの時点では認められませんでした。
細胞診では、淡青色のケラトヒアリン様物質を含む単一細胞群を確認。
これらの検査結果から、鼻鏡部扁平上皮癌(T3N0M0)と診断しました。

CT検査では、腫瘍の広がりは犬歯より前方に限局していたため、完全切除が可能と判断されました。

鼻鏡扁平上皮癌は局所浸潤性が非常に強く、進行すれば生活の質に重大な影響を及ぼす腫瘍です。
現時点で根治が望める治療法は、鼻鏡の外科的切除のみでした。
ご家族には、
について丁寧に説明。
最終的に、「今この時点で治る可能性があるのは手術だけである」という現実を踏まえ、鼻鏡切除術を実施する方針となりました。
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鼻鏡切除術を実施したあと、食事や飲水は自力で可能となりました。
鼻粘膜周囲の毛に触れてくしゃみや軽度の出血が起こることはありましたが、術前と比べて呼吸状態や生活の質は明らかに改善。
その後、
による治療を継続しました。
抗がん剤治療後、約1年10か月間にわたって局所再発や転移は認められず、最終的には別の疾患により永眠されました。
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鼻鏡扁平上皮癌は、早期診断と適切な外科的判断によって生存期間と生活の質が大きく左右される腫瘍です。
見た目の変化だけにとらわれず、「今、何を守れるか」という視点で治療を考えることが、動物と飼い主様にとって最善の選択につながります。
鼻水やくしゃみが長く続く、鼻のしこりに気づいたなど、少しでも異変を感じた場合は、早めに当院へご相談ください。