直腸リンパ腫

直腸リンパ腫とはどんな病気?

直腸リンパ腫は、直腸の壁に存在するリンパ組織から発生する悪性腫瘍です。
リンパ腫というと「リンパ節の病気」というイメージを持たれることが多いかもしれません。
実際には

  • 消化管
  • 皮膚
  • 脾臓

など、さまざまな部位に発生することがあります。
直腸リンパ腫の特徴は、直腸の粘膜表面よりも、壁の内側が全体的に厚くなる点です。
そのため、

  • 肛門まわりが腫れる
  • 排便がしづらくなる
  • しきりに肛門をなめる

といった症状が出る一方で、表面に明確な「しこり」が見えないことも少なくありません。

炎症や他の腫瘍と見分けがつきにくい理由

直腸リンパ腫は、見た目や初期症状が

  • 肛門周囲炎
  • アレルギー反応
  • 一時的な直腸炎

と非常によく似ています。
実際、舐めすぎや一時的な炎症で肛門周囲が腫れるケースも多く見られます。
ただし、肛門周囲の腫れは直腸リンパ腫などの腫瘍性疾患が隠れていることもあるため注意が必要です。
とくに直腸の壁そのものが厚くなっている場合、外から見える腫れだけでは原因がわからないこともあります。

また、直腸に発生する腫瘍には、リンパ腫だけではなく腺癌や肉腫など外科切除が治療の中心となるものもあります。
直腸リンパ腫の場合は外科的に切除する治療は適さず、抗がん剤治療が主体となるケースが多いのが特徴です。
同じ肛門周囲にできる腫瘍であってもきちんと動物病院で診断してもらう必要があるということですね。

正しい診断が治療選択を左右する病気

直腸リンパ腫では、

  • 直腸壁がどのように厚くなっているか
  • 周囲のリンパ節に変化がないか
  • 全身性の病気として広がっていないか

といった点を、画像検査や細胞診で丁寧に確認していく必要があります。
「切るべき腫瘍なのか」「切ってはいけない腫瘍なのか」この見極めが、その後の治療と生活の質を大きく左右します。

【症例紹介】14歳 ラブラドール・レトリバーの直腸リンパ腫

ここからは、実際に当院で治療を行った症例をご紹介します。
患者は14歳のラブラドール・レトリバーの未去勢オスで、「2日前から肛門まわりが大きく腫れ、しきりに舐めるようになった」「排便がうまくできない」という主訴で来院されました。

初診時の所見

診察時、肛門部は目で見てわかるほど著しく腫大し、赤く充血していました。
直腸検査では、粘膜表面自体は比較的なめらかである一方、直腸壁全体が内側から厚くなっていることが確認されました。
骨盤の奥から押されるような圧迫感が強く、この直腸壁の肥厚が排便困難の主な原因と考えられました。

画像検査でわかったこと

レントゲン検査では、通常見られるはずの直腸内のガス像が消失しており、骨盤腔内には軟部組織の陰影が広がっていました。
さらに、腰骨下リンパ節が大きく腫大し、その圧迫によって直腸が腹側へ押し出されている状態を確認。
超音波検査では、直腸壁の厚みは約8mmと著しく肥厚しており、腰骨下リンパ節の腫大も複数箇所で認められました。
これらの所見から、単なる局所炎症では説明がつかない状態であることが明らかになりました。

肛門部は著しく腫大

写真1

肛門部が著しく腫大した犬のレントゲン写真

写真2

 
直腸リンパのエコー画像
直腸リンパ節のエコー画像
 

細胞診検査による確定診断

病変の性質を確認するため、細胞診検査を実施。
その結果、赤血球と比べて明らかに大きい円形細胞が多数観察され、リンパ腫が強く疑われる所見が得られました。
その後の病理組織検査でも、高グレードのリンパ腫であることが確認されました。

直腸リンパ節の細胞診
 
 

この症例で重要だった判断ポイント

今回の症例では初診時の外観だけを見ると、強い炎症反応や急性のアレルギー性変化の可能性も考えられる状況でした。
しかし、

  • 直腸壁全体が均一に厚くなっていること
  • 複数のリンパ節が同時に腫大していること

といった所見を総合すると、「切って治す病気」ではない可能性が高いと判断されました。
もし細胞診を行わず、腫瘤として外科切除を選択していた場合、本来適さない治療によって状態を悪化させていた可能性があります。

まとめ

直腸リンパ腫は、見た目や初期症状だけでは炎症や他の病気と区別がつきにくく、診断が遅れてしまうことも少なくありません。
だからこそ、「よくある肛門トラブル」と自己判断せず、必要な検査を受けることがとても大切です。
当院では、肛門や直腸まわりの腫れ・排便トラブルに対して、触診や画像検査、細胞診などを組み合わせながら、「切るべき病気なのか」「切ってはいけない病気なのか」を丁寧に見極めたうえで治療方針をご提案しています。

肛門まわりの腫れや排便時の違和感、舐める行動が続いている場合は、どうぞ早めにご相談ください。
愛犬の生活の質を守るために、その子にとって最適な選択を一緒に考えていきましょう。