ラブラドール・レトリバー 14歳 未去勢オス
2日前より肛門部の腫大と過剰な舐め行動、排便困難
2年前、内視鏡検査にてリンパ管拡張症の診断歴あり
肛門部は著しく腫大(写真1)し、赤く充血
直腸検査では直腸壁のびまん性肥厚を認めるが、粘膜表面は比較的平滑
骨盤腔内での圧迫感が強く、排便困難の主因と考えられた
直腸内のガス陰影が消失
骨盤腔に軟部組織陰影が充満し、腰骨下リンパ節の腫大により直腸が腹側へ変位
写真1
写真2
直腸壁の厚みは約8mmと著明に肥厚
腰骨下リンパ節の腫大を複数箇所で確認
細胞診では、赤血球と比較して大型の独立円形細胞が多数観察される(写真5)
リンパ腫を強く疑う所見
病理組織検査の結果も高グレードのリンパ腫
本症例では、最初の印象だけでは強い炎症や急性アレルギー反応の可能性も考えられたが、画像所見と触診を重ねることで、単なる炎症ではない異常な組織肥厚が明らかとなった。
直腸に腫瘍性病変を認めた場合
・外科的切除が必要な腺癌や肉腫の可能性もある一方で、
・本症例のように外科不適応のリンパ腫であることもある。
細胞診を省略したまま外科に踏み切ることのリスクは極めて高い。
実際、筆者が大学病院で目にした症例では、同様の直腸腫瘤に対し、リンパ腫と知らずに外科を実施してしまい、極めて深刻な経過となった例もあった。
・外観や触診所見からは、腫瘍の性質を見誤るリスクがある
・とくに肛門・直腸領域の腫瘤性病変では、細胞診の実施が不可欠
・**“切ってしまってからでは遅い”**という意識が重要
・臨床医は、病変の挙動に矛盾を感じた時には、一歩立ち止まって診断の再確認を