大腿骨骨折

大腿骨骨折とは?

大腿骨骨折は犬や猫で最も一般的にみられる骨折のひとつで、全骨折の約20~25%を占めます。特に長骨の中では45%を占め、最も頻度が高い骨折です。大腿骨は後肢の太ももの骨で、骨の中でも太くて頑丈な構造をしていますが、強い外力や事故によって骨折することがあります。骨折の部位は、骨の中央(骨幹部)、関節に近い端(近位部・遠位部)に分かれ、骨折の形もまっすぐ折れる「横骨折」、斜めに折れる「斜骨折」、バラバラになる「粉砕骨折」などさまざまです。また、外傷性骨折だけでなく、骨腫瘍などの病的骨折が原因の場合もあります​​。

大腿骨の成長板骨折とは?

成長板骨折は、まだ骨の成長が続いている若い動物に特有の骨折です。大腿骨の端には「成長板(骨端線)」と呼ばれる柔らかい軟骨があり、ここが骨の長さの成長を担っています。この成長板は非常に壊れやすく、ジャンプの失敗や小さな衝撃でも骨折することがあります。成長板骨折には「ソルター・ハリス分類」が用いられ、損傷の程度により治療方針が異なります。適切なタイミングでの治療を行わないと、脚の長さの左右差や関節の変形を引き起こすことがあるため、早期発見・早期治療がとても大切です。

大腿骨骨折の原因は?

大腿骨骨折の原因はさまざまですが、もっとも多いのは交通事故や高所からの落下などによる強い衝撃です。特に屋外に出る習慣のある動物では、車との接触事故による骨折が多くみられます。一方、室内飼育の小型犬や猫では、ソファや階段からの落下、抱っこ中の落下など、軽い衝撃でも骨折してしまうことがあります。また、骨腫瘍などの疾患によって骨がもろくなり、日常的な動作でも骨折してしまう「病的骨折」も存在します。原因によって治療方針が異なるため、正確な診断が重要です。

大腿骨を骨折しやすい犬種や年齢は?

大腿骨骨折は、特に成長期である5歳以下の若い犬や猫に多くみられます。骨がまだ柔らかく、活動量も多いため、骨折のリスクが高くなります。小型犬ではチワワやトイ・プードルなどが室内での事故で骨折しやすく、大型犬ではラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーなどが屋外での事故で骨折することがあります。また、ダックスフントのような四肢の構造に特徴のある犬種や、骨が細く折れやすい体型の犬種(例:グレーハウンドなど)も骨折のリスクが高いとされています。

大腿骨を骨折するとどんな症状がでるの?

大腿骨を骨折すると、動物は患肢を浮かせて歩こうとせず、足を着けなくなります。また、折れた部分が腫れて熱を持っていたり、触ると強い痛みを示すことが多く、抱き上げたときに鳴いたり嫌がったりする場合もあります。粉砕骨折や変位が大きい場合には、触診で「ゴリゴリ」という異常な音(捻髪音)が感じられることもあります。さらに、骨折部分が神経や血管に影響を与えると、足先の感覚が鈍くなったり(麻痺)、足先が冷たくなったりすることもあるため(血流障害)、早めの受診が必要です。

大腿骨骨折の治療方法は?

大腿骨骨折の治療は、基本的には外科手術による「内固定」が主流です。骨の状態に応じて、髄内ピン、骨プレート、スクリュー、あるいはインターロッキングネイルといった器具を使ってしっかりと骨を固定します。特に粉砕骨折や骨のずれが大きい場合には、安定した固定が治癒の鍵となります。大腿骨は体重がかかる重要な骨であるため、ほとんどの症例で手術が推奨されます。事故や高所からの転落など強い外力によって骨折が生じた場合には、手術前には全身状態を安定させることが大切です。外固定法や保存療法は、大腿骨の骨折には十分な効果が期待できないため、通常は推奨されません​​。

大腿骨骨折と診断されたら手術した方がいいの?

大腿骨骨折は、多くの場合で手術が必須です。大腿骨は後肢を支える重要な骨であるため、自然治癒を期待して放置するのは難しく、骨がずれたまま癒合してしまうと、将来的に歩行に支障をきたす可能性があります。特に骨が粉砕していたり、骨の位置が大きくずれていたりする場合には、手術によって正しい位置に戻し、しっかりと固定することが重要です。これにより将来的な歩行機能の回復が期待できます。

大腿骨骨折の手術のあとの管理はどのくらい必要なの?

術後の管理は、骨がしっかりと癒合するまでの約6〜8週間が重要です。この間は過度な運動を避け、基本的にケージレストで安静を保つことが求められます。散歩は短時間・平坦な場所で、必ずリードをつけて慎重に行ってください。また、筋肉や関節の機能を落とさないように、獣医師の指導のもとでリハビリテーションを取り入れると、より早く回復が期待できます。骨の癒合状態によっては、後日内固定具の抜去が必要になることもありますので、定期的な診察とレントゲン検査が大切です。

右側大腿骨遠位成長板骨折 レントゲン画像
右側大腿骨遠位成長板骨折 術中所見03
右側大腿骨遠位成長板骨折 術中所見01
右側大腿骨遠位成長板骨折 術中所見02
右側大腿骨骨幹部粉砕骨折 レントゲン画像
右側大腿骨骨幹部粉砕骨折 術中所見01
右側大腿骨骨幹部粉砕骨折 術中所見02
右側大腿骨骨幹部粉砕骨折 レントゲン画像