橈尺骨骨折

動画で解説!橈尺骨骨折

橈尺骨骨折ってなに?

犬の前足は、上腕骨と橈骨・尺骨、指先の骨から構成されています。橈尺骨骨折は、肘と手首の関節をつなぐ橈骨と尺骨という骨が折れてしまうケガのことで、橈骨の中央から手首に近い場所で骨折が起こりやすいです。それぞれの骨に役割があり、橈骨は橈骨と尺骨にかかる荷重のほとんどを支えていて、尺骨は肘関節の大切な構成要素です。犬の場合尺骨の中央部分は非常に細くなっています。

橈尺骨骨折の原因は?

外的要因

トイ犬種の橈尺骨骨折のほとんどの原因は、ソファや椅子からジャンプした際の着地の失敗や抱っこ中の転落です。着地するところはフローリングなどの滑りやすい環境であることが多いです。

内的要因

成長期は成犬にくらべて骨がやわらかいことや、トイ犬種は橈骨の先端のあたりの血流が少ないことなどが要因として考えられています。

橈尺骨を骨折しやすい犬種や年齢は?

橈尺骨骨折は、トイ・プードルやポメラニアン、チワワ、ヨークシャー・テリアなどのトイ犬種やイタリアン・グレーハウンドに多い傾向がみられます。骨折は外傷なのでさまざまな年齢で生じますが、若い時期(2歳未満、特に6–11ヵ月齢)に骨折しやすい傾向があります。

橈尺骨を骨折するとどんな症状がでるの?

突然キャンと鳴いて痛めた足を完全に挙上することがほとんどです。骨が折れた場所から先がぷらぷらになってしまい、触ろうとすると痛がります。
4ヵ月齢未満などの超若齢期では、骨折してもすぐに痛めた足を使うようになることもあるので、足を使うようになったからといって安心せずにきちんと病院で診察を受けることが望ましいです。

橈尺骨骨折の治療方法は?

骨折に対する基本的な治療は、折れた骨を“整復”して“安定化”させることです。
ただし、治療がうまくいくかどうかは、折れた骨がどのように治っていくかを理解する必要があります。
手術によって骨どうしをしっかり安定化させてあげることで、骨としてつながることができ、骨癒合(こつゆごう)を達成することができます。一方で、包帯で骨折した部分を安定化させようとしても、骨のまわりには筋肉や皮膚といったやわらかい組織が存在するため、不安定が残ってしまいます。骨どうしは自分の力で治ろうとしますが、動揺が大きいと骨のような硬い組織はつくれないので、やわらかい組織でつながろうとします。このような状況が続くと、骨が曲がってつながる“変形癒合”になったり、骨片どうしが動揺を残したままやわらかい組織でつながる“癒合不全”というトラブルに進行していきます。

変形癒合や癒合不全が生じると、前足を挙げたままになったり、足先の向きが異常な方向を向いていたり、重度の機能障害が残ってしまいます。
犬や猫は、自分のケガと安静の必要性を理解できないため、基本的に手術によって治療することが必要です。

保存療法

キャスト包帯(硬い包帯)と運動制限によって折れた骨を安定化させる方法です。キャスト包帯は、皮膚や皮下脂肪、筋肉などのやわらかい組織を介して固定するため、不安定によって癒合不全が生じやすくなったり、包帯によるトラブル(皮膚の擦れ、褥瘡など)が起こることがあるため、トイ犬種では推奨されません。

保存療法を検討できるケース

骨片どうしのずれ(変位)がほとんどない若齢期(〜5ヵ月齢頃)の犬では、骨が癒合するのに要する期間が短いため、保存療法の適応を検討できることがあります。

手術を受けるまでの応急処置としてロバート・ジョーンズ包帯というやわらかい包帯を使うことが多いです。この包帯の目的は、骨折部周囲の軟部組織を保護したり、骨折部が皮膚を突き破って開放骨折になるのを防ぐことです。

外科療法

手術の方法は大きく分けて以下の3種類の方法があります。
トイ犬種では、骨折の整復は橈骨のみに行い、尺骨の固定を行うことはほとんどありません。その理由は、トイ犬種の尺骨はとても細くて固定が困難であり、また前腕にかかる負荷のほとんどは 橈骨が支えているからです。手術のあとに尺骨が癒合しないことがありますが、橈骨の癒合がしっかり達成されれば機能障害が生じることはありません。
一方で、中型以上の体格の犬や猫では、尺骨の固定も行います。

髄内ピン法

骨は基本的に筒状の形状をしており、皮質骨(まわりの硬い骨)と海綿骨(なかの柔らかい骨)から構成されています。髄内ピン法は、この海綿骨の部分にピンを入れて安定化させる方法です。
この方法は曲げる力には強いものの、捻る力には弱いため、捻れたまま癒合してしまったり(変形癒合)、癒合不全が生じる可能性があるため、最近は橈尺骨骨折の手術に使われることはほとんどなくなりました。

プレート固定法

ずれた骨片同士を元の位置に整復し、金属のプレートとネジで固定する方法です。プレート固定は、骨にかかるさまざまな方向の負荷に対して十分に抵抗することができ、プレートも皮膚の下に埋まっているので、術後の管理にあまり手間がかからず快適に過ごすことができます。ただし、プレートを体の中に残したままにしておくと、骨が癒合したあとに骨が痩せていくことがあります。

創外固定法

体の外から骨にピンを刺して、体の外の固定具で安定化させる方法です。
創外固定法は、段階的にインプラントによる固定強度を落とすことができ、それに応じて骨折を治そうとする反応(仮骨増生)を促すことができます。
この方法は、骨が癒合したあとに固定具をすべて外すので、インプラントが生体内に残ることがありません。ただし、固定具の増し締めやピンの周囲の消毒など術後の処置が必要で、固定具を外す際には鎮静や麻酔が必要になります。

当院では固定強度と術後管理の観点から橈尺骨骨折に対しては主にプレート固定を行っています。

橈尺骨骨折と診断されたら手術した方がいいの?

基本的に手術が必要です。
骨どうしを安定化させる方法には、保存療法と外科療法がありますが、犬はヒトと違って自分のケガと安静の必要性を理解できません。熟練した術者が手術すれば、ほとんどの場合元通りの生活ができるようになるだけでなく、手術でしっかり治した方が保存療法に比べて包帯を着用する期間や安静にする期間が短くなり、結果として治療期間も短くなります。

橈尺骨骨折の手術のあとの管理はどのくらい必要なの?

入院期間は1週間で、術後5日間はロバート・ジョーンズ包帯という柔らかい包帯を巻いて患部を保護します。術後2週間はしっかり運動制限を行い、その後2週間はジャンプは控えてもらいながら家の中で生活してもらいます。術後4週目以降は散歩を再開して徐々に運動制限を解除していきます。

橈尺骨骨折の手術のあとはリハビリは必要?

橈尺骨骨折の治療経過が順調かどうかは、骨折した足を使うかどうかによく反映されます。経過に問題がなければ術後2〜4週目頃には足をよく使用するようになります。足をよく使っていてもマッサージなどが有効な場合もありますので、診察の際に相談しましょう。

プレートは外した方がいいの?

プレートを外す場合と外さない場合のメリットとデメリットを挙げてみます。
メリットとデメリットを考慮のうえ、執刀医と相談しましょう。

プレートを外す場合 プレートを外さない場合
メリット 痩せた骨が元に戻る
骨を元の状態に戻せる
再骨折する可能性はきわめて低い
短期間で制限のない生活を送ることができる
デメリット 麻酔が必要
術後一定期間は運動制限や外固定などの治療が必要
再骨折のリスク
(画像で骨が癒合しても元通りの強度に戻るまでには通常数ヵ月の時間が必要)
骨が痩せる(→症状が現れることは非常にまれ)
皮膚をなめてプレートが露出してくる(非常にまれ)

当院では基本的に飼い主さんの強い希望がない限りはプレートを外さないことが多いですが、成長期で骨が伸びるとともにプレートが成長の邪魔になってしまう場合にはプレートを外すことを推奨することがあります。また、プレートの下の骨が極端に痩せてきた場合には部分的にスクリューを外すことがあります。

橈尺骨骨折の手術のあとは普通に歩けるようになるの?

適切な手術を受ければ、一般的な骨折なら元通りの生活が送れるようになることがほとんどです。一旦癒合不全になってしまうと、治療が大変になることが多いので、骨折の治療は最初の治療が大切です。手術の適応とその後の経過の展望については手術を実施する前によくお話ししましょう。