骨盤骨折

骨盤骨折とは?

骨盤骨折は犬や猫でよくみられるケガのひとつで、全体の骨折の16~25%を占めます。骨盤は、「腸骨」、「坐骨」、「恥骨」、「仙骨」などいくつもの骨が組み合わさった“箱型の構造”をしています。この頑丈なつくりのため、骨盤に骨折が生じると通常2~3箇所以上が一緒に折れるのが特徴です。小さな外力で1箇所だけ骨折することは珍しく、多くの場合は交通事故や高いところからの落下といった大きな衝撃(高エネルギー外傷)によって起こります。
また、骨盤の骨折では内臓や神経が傷つくこともあります。例えば、肺が破れて「気胸」になったり、尿道が損傷して排尿がうまくできなくなったりすることもあります。また、骨盤のまわりを通る坐骨神経が傷つくと後ろ足が麻痺することもあります。
まずは命に関わる問題がないか、しっかり診断することが大切です​​​。

骨盤骨折の原因は?

犬や猫の骨盤骨折の約77~90%は、交通事故が原因です。その他、高い場所からの落下(ベランダ、窓、家具の上など)や強い衝撃を受ける事故(踏まれる、挟まれる)などで骨折することがあります。特に若い動物(2~3歳以下)は、好奇心旺盛で屋外での活動が多いため、交通事故や外傷のリスクが高い傾向にあります。また小型犬や猫では、家庭内での家具からの落下によって骨盤骨折が生じる可能性があるため、注意が必要です​​​。

骨盤を骨折しやすい犬種や年齢は?

骨盤骨折は、年齢や犬種を問わず発生しますが、特に若い動物にリスクが高いとされています。若年動物は骨がやわらかく、好奇心旺盛で屋外での活動が活発であるため、交通事故や転倒が起こりやすくなります。小型犬や室内飼育の猫では家具からの落下などが骨折の原因となる場合があり、骨折のリスクは動物の年齢、体格、活動レベルによって異なります​​。元気に遊ぶことは大切ですが、事故を防ぐために安全対策をしてあげましょう。

骨盤を骨折するとどんな症状がでるの?

骨盤骨折の主な症状として、うまく歩けない(歩行困難)、後肢に体重をかけたがらない、強い痛み、後肢の痺れ・麻痺などが挙げられます。
特に片側の骨盤が損傷している場合、患肢をかばうために健常肢にも影響が及ぶことがあります。また、骨盤は消化管(便の通り道)や泌尿器(尿の通り道)が近くにあるので、骨片がこれらの器官を損傷すると便秘や排尿困難が生じることもあります。さらに、骨盤のまわりにある神経(坐骨神経や大腿神経)が傷ついた場合、後肢の麻痺や感覚障害が発生することがあります。どのような症状が出るか、どの程度の重症度かは、骨折の位置や重症度によって異なります​​​。

骨盤骨折の治療方法は?

骨盤骨折の治療方法は、骨折の種類や動物の全身状態によって異なりますが、体重のかかる部分(仙腸関節、腸骨体部、寛骨臼)に骨折が生じた場合には基本的に手術が必要です。手術では、折れた骨を元の位置に戻し、プレートやスクリューでしっかり固定します。また、事故の衝撃で神経や内臓がダメージを受けている場合には、骨折よりもそれらの治療を優先することもあります。
坐骨や恥骨など体重のかかりにくい部分で骨折が生じた場合や、骨盤の「箱型構造」の安定性が保たれている場合には、運動制限や鎮痛剤の使用による保存療法を選択できる場合があります。

骨盤骨折と診断されたら手術した方がいいの?

手術が必要かどうかは、骨折の部位によって判断する必要があります。
特に骨盤骨折では、怪我をしてから時間が経過すると骨盤腔(便の通り道)が狭くなって固まってしまい、骨盤腔狭窄による排便障害が生じる可能性があります。こうなるとあとから治すのが難しくなるため、手術が必要かどうかを早い段階で専門医に判断してもらうことが大切です。
一方で恥骨や坐骨といった負重があまりかからない部位のみの骨折では、手術が回避できる場合があります。

骨盤骨折の手術のあとの管理はどのくらい必要なの?

高エネルギー外傷によって骨盤を骨折した場合には、受傷してから2週間程度は全身状態の変化に注意を払う必要があります。
骨が完全に癒合するまでの期間は、健康状態や年齢によりますが6~8週間程度が一般的です。この間、散歩はリード付きの短時間のみに制限し、室内でも飛び跳ねたり、走り回ったりしないように注意しましょう。また、術後の経過によってはリハビリテーションを行うことで、後肢の機能回復がスムーズになることもあります。