
猫の乳腺にしこりや腫れが見つかると、どうしても乳がんという言葉が頭をよぎりますよね。
猫の乳腺腫瘍は悪性の割合が高いこともあり、早く対応すべき病気であるのは事実です。
ただし、乳腺が腫れているからといって、すべてが腫瘍というわけではありません。
若い猫に特有の、腫瘍ではない乳腺の病気が隠れていることもあります。
今回は、実際の症例をもとに「線維上皮性過形成」 という病態についてご紹介します。
線維上皮性過形成は、猫の乳腺が短期間で一気に膨らむ病気です。
見た目の変化が急で大きいため、初めて見ると強い不安を感じてしまうかもしれません。
この病気は、乳腺そのものが異常な細胞に置き換わる腫瘍ではなく、ホルモンの影響によって乳腺が過剰に反応している状態です。
とくに関係しているのが、プロゲステロン(黄体ホルモン)です。
発情や妊娠、あるいはホルモン剤の影響を受けたあとに、プロゲステロンによって乳腺が一時的に大きく腫れることがあります。
線維上皮性過形成は、次のような猫で多くみられます。
若い猫で、短期間のうちに乳腺が複数同時に腫れてきた場合、この病気の可能性があります。


今回ご紹介するのは、未避妊の若いメス猫です。
1カ月ほど前に発情があり、その後、乳腺の腫大に飼い主様が気づかれました。
とくに尾側の乳腺で目立った腫れがみられ、あわせてほかの乳頭周囲にも軽度の腫脹が確認されました。
腫れは比較的短期間のうちに出現しており、経過確認と精査を目的に来院されています。
診察では乳腺の腫れは比較的柔らかく、触って強く痛がる様子や熱感は認められませんでした。
ただし、見た目や触診だけで、腫瘍かどうかを判断することはできません。
そのため、画像検査と細胞の検査を行いました。
これらの結果から、腫瘍性の変化よりも、ホルモンの影響による乳腺の反応が疑われました。
その後、治療の一環として避妊手術を行った際、乳腺の下にある皮下組織に水分が多くたまった状態(浮腫)が確認されました。
検査結果と手術時の所見を総合し、線維上皮性過形成と診断しました。
均一な混合エコー
間葉系細胞主体

切皮した段階で浮腫が確認できる。
※クリックすると画像が確認できます
皮下織の著しい浮腫
※クリックすると画像が確認できます
この症例では、ホルモンの影響を断つ目的で避妊手術を行いました。
腫大した乳腺は、すぐに元に戻るわけではありませんが、数週間から数カ月かけて、徐々に小さくなっていくことが多いです。
今回の症例でも、約5カ月ほどで落ち着いていく見込みとしています。
線維上皮性過形成は良性の病態ですが、見た目だけでは乳がんとの区別がつきません。
もし乳腺腫瘍だった場合、猫の乳腺腫瘍は進行が早いため、「様子見」という判断が、結果的に治療の遅れにつながることもあります。
そのため、良性であっても悪性であってもきちんと動物病院で診断を受けることが大切です。
乳腺の病気を考える上で年齢は大きな手がかりの一つになります。
| 病態 | 好発年齢 |
|---|---|
| 乳がん | 10~12歳が中心、5歳未満はまれ |
| 線維上皮性過形成 | 2歳未満が多い |
上記の表のように繊維上皮性過形成は若齢に多い病気です。
そのため若い猫の乳腺の腫れでは、この病気が背景にある可能性も考えられます。
ただし、年齢だけで病気を断定することはできません。
例外もあるため、決めつけないことが重要です。
驚かず、慌てず、まずは診察を
線維上皮性過形成は、猫では比較的よくみられる良性の乳腺疾患です。
見た目に驚いてしまうかもしれませんが、適切に診断を受け、原因に対処すれば改善が期待できます。
一方で、猫の乳腺疾患には乳がんのように早期対応が重要な病気もあるため、見た目や年齢だけで判断することはおすすめできません。
乳腺の腫れに気づいたときは、「様子を見るべきか」「検査が必要か」を整理するためにも、一度診察を受けることが大切です。
当院では、猫の乳腺のしこりや腫れに対して、触診だけで判断するのではなく、超音波検査や細胞診などを組み合わせて評価を行っています。
良性の変化なのか、慎重な対応が必要な病気なのかを見極めたうえで、それぞれの猫に合った治療や経過観察の方法をご提案しています。
乳腺の変化に気づかれた際は、お早めにご相談ください。