消化管間質腫瘍

近年、消化管腫瘍に対して「GIST(消化管間質腫瘍)」という診断名がつくケースが増えてきています。
GISTは消化管の間葉系組織に由来する腫瘍で、c-kit遺伝子変異を伴う場合には、イマチニブなどの分子標的治療薬が有効とされている点が特徴です。
また、肥満細胞腫に加えて、GISTに対してもc-kit遺伝子検査が実施できるようになり、治療選択肢の幅が広がってきました。
ここでは、GISTと診断された猫の症例についてご紹介します。

ここでは、GISTと診断された猫の症例をご紹介します。

【症例紹介】10歳チンチラの消化管間質腫瘍(GIST)

患者は10歳のチンチラの避妊メスで、「お腹が張ってきた」という腹囲膨満を主訴に来院しました。
食欲低下や嘔吐・下痢などの明らかな消化器症状はみられていませんでした。

消化管間質腫瘍のレントゲン写真
消化管間質腫瘍のレントゲン写真
消化管間質腫瘍のエコー写真
消化管間質腫瘍の術中写真

※クリックすると画像が確認できます

消化管間質腫瘍の術中写真

※クリックすると画像が確認できます

画像検査でわかったこと

腹部レントゲン検査では、腹部中央に腫瘤陰影が確認されました。
超音波検査では、腫瘤の多くが液体成分で構成されており、一部で消化管が押しつぶされるように扁平化している様子が確認されました。
また、腫瘤と消化管との間に強い癒着があることが分かりました。

手術所見

開腹手術により、腫瘤は盲腸から発生し、大腸へと大きく広がっていることが確認されました。
腫瘍は腸間膜の根元付近まで及んでいましたが、重要な血管を温存しながら切除することが可能と判断。
手術により腫瘍の完全切除を達成しました。

病理結果と術後経過

病理組織検査の結果、診断は消化管間質腫瘍(GIST)でした。 核分裂頻度は少なく、術後3か月が経過した現在も、全身状態は良好に保たれています。

腫瘍の性質について

GISTは、消化管の内側ではなく外側へ向かって大きくなる傾向があります。
そのため、腸閉塞のような症状が出にくいことがあります。
一方で、腸の内側に潰瘍ができると出血を起こす可能性があるという特徴も。
一般的には転移性は低いとされていますが、再発や転移のリスクは腫瘍の大きさや細胞の増え方によって異なります。
人の医療分野では、腫瘍が小型であっても転移を起こす症例が報告されており、犬でも慎重に経過観察をしていくことが重要です。

GISTにおけるリスク評価の考え方

GISTの再発や転移のリスクは、主に以下の要素をもとに評価されます。

  • 腫瘍の大きさ
  • 核分裂数
  • 発生部位(胃・小腸・大腸など)

人の医療では、これらの因子を組み合わせたリスク分類が用いられており、腫瘍径や核分裂頻度、発生部位によって再発リスクが段階的に評価されています。

人のGISTリスク分類

Mitoticindex Size 小腸 十二指腸 大腸
5以下/50HPFs 2cm以下 None (0%) None (0%) None (0%) None (0%)
5以下/50HPFs 2cm超5cm以下 Verylow (1.9%) Low (4.3%) Low (8.3%) Low (8.5%)
5以下/50HPFs 5cm超10cm以下 Low (3.6%) Moderate (24%) Insuff. data Insuff. data
5以下/50HPFs 10cm< Moderate (10%) High (52%) High (34%) High (57%)
>5/50HPFs 2cm以下 None High None High(54%)
>5/50HPFs 2cm超5cm以下 Moderate (16%) High (73%) High (50%) High (52%)
>5/50HPFs 5cm超10cm以下 High (56%) High (85%) Insuff. data Insuff. data
>5/50HPFs 10cm< High (86%) High (90%) High (86%) High (71%)

本症例では、核分裂頻度は少ないものの腫瘍が大型かつ盲腸から大腸への進展を伴っていたため、高リスク症例と判断しました。

今後の治療と展望

GISTは、腫瘍の大きさや細胞の増え方によって再発リスクが変わる腫瘍です。
そのため、必要に応じて内科的な追加治療を検討することもあります。 本症例では手術によって腫瘍を完全に切除することができました。

そのため、現在はすぐに追加治療を行うのではなく、定期的な検査による経過観察を行っています。
今後、再発や転移の兆候がみられた場合には、その時点で治療方針を再検討していきます。

最後に

猫のGISTは比較的新しい診断概念であり、治療法や予後評価に関する知見は現在も更新され続けています。
今回の症例では、画像検査によって早期に異常を捉え、外科手術によって腫瘍を完全に切除できました。

当院では、飼い主様と情報を共有しながら、愛猫の状態に合わせた治療と経過観察を丁寧に行っていきます。
今後も不安な症状や変化があれば、どうぞお気軽にご相談ください。