重積

短期間に3例遭遇した“まさか”の連続症例から

腸重積は獣医師にとって決して珍しい疾患ではありませんが、実際に遭遇する頻度はそれほど高くない印象をお持ちの方も多いと思います。
私自身も14年間で2例ほどしか経験がありませんでした。

ところが、直近のわずか3ヵ月間で3例の腸重積症例が来院し、そのすべてに腫瘍または腫瘍を強く疑う病変が関与していました。
本稿では、その驚きの臨床経験と共に、腸重積における腫瘍性疾患の関与について共有したいと思います。

症例1

ラブラドールレトリバー 12歳 避妊メス

主訴

突然の食欲不振

診断

超音波検査にて腸重積を確認(写真1)

手術所見

腸重積を確認後、整復を試みたところ腸内に小指大のポリープ様腫瘤を触知。整復後に腸切開・切除を実施し病変を摘出。

腸重積
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整復後
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切除標本
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症例2

ロットワイラー 10歳 避妊メス

主訴

慢性的な下痢と食欲低下

検査・治療経過

腹腔内腫瘤を確認し、全身状態の悪化から緊急開腹手術を実施。重積した腸管に腫瘤が存在し、整復は不可能な状態だったためそのまま切除。腫瘍が牽引源となって腸管を引き込んでいたと推察される。

重積の整復は出来なかった
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腸管内の腫瘤
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症例3

日本猫 11歳 避妊メス

主訴

慢性腎不全に伴う貧血と食欲低下

経過

腸重積は触診で確認され、手技により整復可能だったが、当初は1日2回の整復が必要な状態だった。貧血改善とともに重積も起こらなくなったが、整復部位には帯状の狭窄が持続しており、腺癌など腫瘍性病変の存在が強く疑われる。

重積はないが一部狭窄している

臨床考察

成人ヒトの腸重積の多くは腫瘍性

人医療において、成人の腸重積の約80〜90%が腫瘍やポリープなどの器質的疾患に起因するとされています。小児と異なり自然軽快は少なく、精査・外科対応が原則です。

動物でも同様の傾向がある可能性

今回の3例の共通点は以下のとおり

・すべて中高齢(10歳以上)
・すべて腫瘍性または腫瘍を強く疑う病変を伴う
・腸重積は腫瘍の存在による牽引・構造異常が原因と考えられる

中高齢動物において腸重積が認められた場合は、腫瘍性病変を強く疑うべきであるという臨床的示唆が得られます。

腸重積の治療とポイント

整復術:手技によって解消できるケースも存在する(症例3)

切除術:腫瘍が存在する場合は、腫瘍ごと腸管切除が必要

病理検査の実施:切除部の確定診断が極めて重要

腫瘍の早期診断:下痢・嘔吐・食欲不振の背景に、腫瘍が隠れている可能性を意識

まとめ

腸重積は“整復すれば終わり”ではありません。腫瘍が背景に存在する可能性が高いことを、今回の3症例が示しています。特に中高齢動物では、重積の発生そのものが腫瘍性病変のサインである可能性があり、触診・画像検査・病理検査を通じた早期診断が極めて重要です。

また、腸重積が手技的に整復できる場合もあるという事実も、臨床家として覚えておきたいポイントです。腫瘍と消化管の関連を再認識し、今後の診療にぜひお役立てください。