口腔メラノーマ

悪性腫瘍は初診時にすでに進行しているケースも多く、特に高齢の動物には治療選択が難しいことがあります。
しかし、QOL(生活の質)を維持することを目指し、放射線治療という選択肢が功を奏することもあります。
今回は、進行した口腔メラノーマに対し放射線治療を実施した症例をご紹介します。

症例

ラブラドール・レトリバー 13歳 避妊メス

飼い主からの訴え

・3週間前から左頬の腫れに気付く
・以前より口臭が気になっていた
・1週間前より血混じりのよだれと頻繁なくしゃみ

視診・触診所見

・左上顎第3〜4前臼歯後方にかけて黒色の腫瘤を確認
・一部に自潰と出血あり
・強い口臭と組織壊死を認める
・食欲不振・体重減少、患側リンパ節は2cm大に腫大

検査結果

局所X線検査:上顎第4前臼歯周囲に骨吸収像を確認
胸部X線検査:左後葉に孤立性の砲弾状陰影あり(肺転移疑い)
局所細胞診:メラニン顆粒を含む悪性メラノーマ細胞を確認
所属リンパ節細胞診:明らかな転移所見は認めず

総合診断

診断名:悪性黒色腫(悪性メラノーマ)
ステージ:T3bN1aM1(STAGE IV)
状態:すでに肺への転移あり。根治は困難

治療方針の検討

進行ステージの腫瘍に対し、根治は望めませんが、QOLの維持を目的とした治療は可能です。

外科手術の選択肢

・拡大切除には頬骨までの侵襲が必要となる可能性あり
・単独外科での局所コントロールは困難
・高齢のため手術の侵襲リスクも高い

放射線治療の選択

・全身麻酔を伴うが、回数を抑えることが可能
・局所制御に効果が高く、QOL改善に有効
・本症例では外科治療は選択せず、放射線治療を実施

放射線治療の実施と経過

治療実施施設:麻布大学
治療内容:週1回の放射線照射 × 計4回
麻酔トラブル:特になし(高齢犬でも問題なし)

劇的な効果

・最終照射時には腫瘍はほぼ消失
・口臭・出血も消失し、自宅での生活の質が大きく向上

その後の経過

・全身治療(抗がん剤など)は腎機能低下のため実施せず
・治療後約5ヵ月で突然の胃捻転により死亡
・最期まで口腔内の再増大は見られず、肺病変の進行もわずか

まとめ

本症例は、進行した口腔メラノーマに対し外科手術を行わず、放射線治療のみでQOLの維持に成功した一例です。

・放射線治療は緩和的な局所制御手段として有用
・根治を目指す治療ではなく、数ヶ月の延命・快適な生活のための治療
・若年で根治が望める症例では、外科的切除も検討すべき

最後に

「腫瘍がある=すぐに諦める」ではありません。
動物と飼い主が最期まで穏やかに過ごせる時間を提供することも、私たち獣医師の大切な役割のひとつです。