ビーグル 8歳 去勢オス
腹囲の著しい腫大
腹部が大きく膨らんできたとのことで来院。触診と画像診断の結果、巨大な腹腔内腫瘤が確認され、脾臓との連続性があることから脾臓腫瘍が強く疑われました。
レントゲンでは、消化管ガスの位置が異常で、腫瘤による圧迫が示唆されました。
超音波検査では、腫瘤と脾臓の連続性が明らかとなり、他臓器への転移は確認されませんでした。
※CT検査が可能であれば、直前に撮影してから手術に移行するのが理想です。
・PCV:15% → 術前に400ml輸血
・FDPやD-ダイマーを測定し、DICの可能性を評価
・クロスマッチも事前に実施
腹腔内出血の影響を考慮し、心室性期外収縮の有無を確認
・18G以上の静脈カテーテルを2ルート確保
・ドパミン・リドカイン・代用血漿などの救急薬剤を準備
・ICUにて術前酸素化と毛刈りを済ませ、麻酔時間を短縮
・尿カテーテル留置で腹圧を軽減
・麻酔導入:アトロピン+プロポフォール
・維持:イソフルラン
・補てい:頭部を高くして横隔膜圧迫を軽減
・切開は傍正中切開:腹膜下脂肪や大網の癒着を側面から処理
・血管シーリング装置や確実な結紮で出血リスクを最小化
・腫瘤は慎重に腹腔外へ牽引し、癒着部位を確認しながら剥離
・注意する血管
・脾動脈
・左胃大網動静脈
・短胃動静脈(胃の噴門部への血流供給があるため脾臓側で結紮)
・脾臓摘出の際、膵臓左葉が一緒に出てくることがあるため、膵臓の損傷にも細心の注意が必要です。
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・摘出後、肝臓外側右葉と腸間膜リンパ節に病変を確認
・腫瘤摘出によって腹圧が下がり、症例は術後速やかに安定
・組織検査と経過観察を継続
今回の目的は、「腹腔内圧迫の解除」と「腫瘤摘出によるQOLの改善」であり、術後の経過から目的は達成されたといえます。
一方で、術中に発見された肝転移の見落としは反省点であり、可能であればCT検査による全身評価が推奨されます。
ただし、「まずご飯が食べられるようにしたい」という明確な目的がある場合、必ずしもCTは必須ではなく、治療の目的を明確にしたうえで判断することが重要です。
これまで手術不能と判断した腹腔内腫瘤は、
・膵臓・小腸を巻き込んだ卵巣腫瘍
・後腹膜腫瘍
・腸間膜根部の腫瘍
など特殊な部位からの発生でした。
脾臓腫瘍であれば、巨大でも切除可能なケースが多く、適切な準備と手技により、安全に摘出できる可能性があります。
巨大腹腔内腫瘤の手術は、これらを丁寧に行えば、症例にとって大きな恩恵となる治療です。
・明確な治療目的の設定
・十分な術前準備
・癒着・出血リスクに対する慎重な対応