気管切開

「動物の生活の質(QOL)を守る」ことを考えるとき、手術はできれば避けたい――それは獣医師にとっても飼い主にとっても同じです。
しかし、時には「呼吸する」こと自体が難しくなるケースがあります。
今回は、呼吸の維持を目的に気管切開術を実施した症例をご紹介します。術後の呼吸状態は驚くほど良好となり、この処置の有効性を改めて実感した一例です。

手術前のポイント

保定の工夫

・切開部位が浮き上がるように枕を使用し、気管がしっかり露出できる体勢を確保

気管切開術の保定状態

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切開の位置

・正中切開を行い、すぐに胸骨舌骨筋が露出
・気管切開は、咽頭から第2~3番目の気管軟骨にかけて実施

気管切開術の切開写真

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気管の露出と固定

・胸骨舌骨筋は正中で容易に分離可能
・気管を腹側に引き上げるように浮かせることで、皮膚との縫合にかかる余分な張力を軽減
・第2~7気管軟骨の周囲を剥離し、気管をマットレス縫合で安定化
・使用糸:非吸収糸で水平マットレス縫合(2針)

※気管軟骨が非常に柔らかい症例では、この工程は省略したほうが安全です

気管切開術の気管露出写真

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気管をマットレス縫合で安定化させている写真

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気管をマットレス縫合で安定化させている写真

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気管をマットレス縫合で安定化させている写真

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気管切開の実施と注意点

粘膜の温存が最大のポイント

・気管内粘膜を損傷せずに、気管軟骨のみを剥離・切除
・粘膜が温存できれば、皮膚への縫合が可能

切除範囲

・気管軟骨3~5個分
・全周の約1/3までが目安

粘膜の処理

・剥離後、4辺2mm程度の“のりしろ”を残すように粘膜を切開
・四隅を起点に吸収糸で縫合し、最終的に全周縫合

気管切開時に切開している写真

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気管切開時に軟骨切開している写真

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気管切開時に軟骨切開している写真

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気管切開術中写真

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気管切開後四隅を縫合している写真

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皮膚の処理と縫合

・皮膚に余裕がある症例では余剰皮膚を切除
・張力を軽減するために皮下・皮膚を先に縫合
・皮膚は非吸収糸、粘膜は吸収糸で縫合

気管切開後の皮膚の縫合写真

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術後管理と合併症の注意点

・粘膜からの分泌物が創部に付着しやすいため、術後の創部ケアが重要
・大型犬では閉塞のリスクは低いが、小型犬や猫では呼吸路の閉塞に注意

適応と効果

今回の症例でも、術後すぐに呼吸状態は明らかに改善し、QOLが大きく向上しました。 この術式は腫瘍による気道閉塞などが原因の場合に特に有効であり、

・処置は比較的シンプル
・合併症も少なく
・迅速な改善効果が期待できる

というメリットがあります。

まとめ

気管切開術は、「最終手段」として扱われがちな処置ですが、適切なタイミングで実施することで、動物の苦しみを大きく取り除くことができます。
術式自体も再現性が高く、熟練すれば非常に安全に実施できる処置の一つです。
今後も、“延命”ではなく“生活の質を守る”ための治療手段として、適切に活用していきたいと考えています。

飼い主の皆様へ

呼吸が苦しそうなとき、「どうしてあげればいいか分からない」と思うことは当然です。
でも、動物たちにも“呼吸を助ける方法”があるということを知っていただければ幸いです。
「苦しさから解放される手段がある」ということを、一緒に考えていきましょう。
生活の質を維持するにしても余計な手術などはしたくないのが本音です。しかも正常な組織を損傷する事によって、現状より状態を悪化させる危険性もあるわけですし。

今回、呼吸を維持するために気管を切開しなければならない症例に遭遇しました。術後の症例の劇的な呼吸状態の改善をみれば、時と場合によっては非常に良い処置であると実感しています。

保定のポイントは切開部位がなるべく浮き上がるように枕を入れることです。切開は正中に行い、すぐに胸骨舌骨筋が露出します。気管切開は咽頭から2・3番目の気管軟骨から切開しますのでそれを考慮して切皮します。 胸骨舌骨筋は正中で簡単に分離できますので直下の気管を簡単に露出できます。

気管が露出できたら次の作業は、気管をなるべく腹側に浮かせ気管と皮膚の縫合部に余分な張力がかからないようにする事です。 第2~7付近の気管軟骨と周囲の組織が剥離できたら胸骨舌骨筋に縫合糸をかけ気管背側を通しマットレス縫合を行います。 水平マットレス縫合は非吸収糸で2糸行いました。

この作業によって胸骨舌骨筋は左右に押し下げられ気管が浮き上がった様な状態になれば成功です。しかしこの状況で気管が潰れてしまうくらい軟骨が柔らかい症例ではこの作業はすべきでは無いようです。