近年、動物医療でも「センチネルリンパ節(見張りリンパ節)」という言葉が注目され始めています。
日本獣医がん学会でも話題に上がったこの概念について、実際の症例を交えてご紹介いたします。
センチネルリンパ節とは、腫瘍細胞が最初に到達するリンパ節のことを指します。 つまり、**リンパ節転移の有無を判断する上で最も重要な「第一関門」**です。
人の乳がん治療では、以前は腋窩リンパ節を広範囲に切除していましたが、現在ではセンチネルリンパ節のみに検査を行い、陰性であれば切除を省略する流れが主流になっています。
これまで私たちは、腫瘍のある部位に最も近いリンパ節=所属リンパ節と考え、そこを検査対象としてきました。
しかし最新の考えでは、解剖学的に近いリンパ節が必ずしもセンチネルリンパ節であるとは限らないことが明らかになってきました。
実際に学会で発表された症例(肥満細胞腫)では、耳の近くに造影剤を注入したところ、最初に造影剤が流入したのは浅頚リンパ節で、最も近くにあるはずの耳下リンパ節には流れていませんでした。
このような報告は、リンパ節評価における常識を見直すきっかけとなっています。
甲状腺腫瘍からのリンパ節転移
・内容:甲状腺腫瘍を手術で摘出。術中に周囲リンパ節への浸潤を確認し切除。
・経過:術後1年半、さらに奥にあるリンパ節に転移を認めた。
・発見のきっかけ:超音波検査で異常を検出、CT検査にて確定。
・対応:進行により外科手術を実施。非常に難易度の高い手術となったが成功。
★ポイント:転移の可能性があるリンパ節は触診で発見できないことが多く、超音波検査の併用が重要。
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↓2ヶ月前
↓現在
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前胸部肥満細胞腫から腋窩リンパ節への転移
・内容:肥満細胞腫を手術で摘出
・経過:術後6ヶ月で腋窩リンパ節に腫瘍の浸潤を確認
・診断手段:超音波検査により直径3cmの腫大を確認
・反省点:早期に超音波検査を実施していれば、より小さな段階での発見が可能だった
「転移が心配だから毎月CTやMRIを撮りましょう」というのは現実的ではありません。大切なのは次の2点です。
1.転移の起こりやすいルートを予測すること
2.触診だけでは発見できないリンパ節に対して、適切な検査(超音波・CTなど)を選ぶこと
・センチネルリンパ節の概念は、今後の動物医療において非常に重要な考え方です
・所属リンパ節=最初の転移先とは限らないため、従来の常識にとらわれない検査が必要
・超音波検査は、術後の定期チェックや転移の早期発見に非常に有効
・リスクの高い腫瘍では、定期的な予測的検査がQOLの維持につながります