変形性関節症(Degenerative Joint Disease; DJD)は、関節のクッションの役割をする軟骨がすり減り、炎症や痛みが起こる慢性の関節の病気で、慢性骨関節炎とも呼ばれます。進行すると関節が変形し、動きが悪くなったり、歩くのを嫌がったりするようになります。
犬や猫も加齢とともに関節が弱くなりますが、変形性関節症はそれが進行した状態です。犬では関節の病気やケガが原因で発症することが多いのに対し、高齢の猫では加齢に伴う変化としてよくみられます。
変形性関節症の原因は「原発性」(加齢などで自然に発症)と「続発性」(関節の病気やケガが原因)に分けられます。
また、肥満は関節に負担をかけ、変形性関節症の進行を早めるため、体重管理も重要です。
変形性関節症はあらゆる犬種や年齢で発症する可能性がありますが、特に以下のケースでは注意が必要です。
変形性関節症の主な症状は以下の通りです。
治療は内科療法(薬やリハビリなど)と外科療法(手術)に大きく分かれます。
大切なのは、きちんと診断をつけて治療につなげることです。重度の変形性関節症があるからといって必ずしも重い症状がでるとは限らないので、まずしっかり診断をつけましょう。
変形性関節症において体重管理は最も重要な内科療法のひとつです。過体重や肥満は関節への負担を増大させ、軟骨の摩耗を加速し、炎症を悪化させます。体重を5~10%減量するだけでも症状の改善が期待できます。カロリー制限、適切な食事管理、おやつの制限を行いながら、徐々に体重を減らすことが推奨されます。
関節の健康をサポートするために、グルコサミンやコンドロイチン、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)などのサプリメントが用いられます。特に、オメガ3脂肪酸は炎症を抑え、関節の痛みを軽減する効果が期待されています。最近では緑イ貝エキスやアボカド・大豆不けん化物(ASU) なども関節の保護に役立つとされています。
理学療法や機器を用いた治療により、関節をスムーズに動かせるようにしたり、筋肉の張りをやわらげたりすることで慢性痛の軽減をはかります。水中トレッドミル、温熱療法、マッサージなどが含まれます。特に水中運動は、浮力により関節への負担を軽減しながら筋力を強化できるため、変形性関節症をもつ動物に有効なリハビリ手段です。
変形性関節症による炎症や痛みを抑える薬は、NSAIDs(痛みや炎症を抑える薬)が第一選択肢として用いられます。NSAIDsは強い鎮痛効果が得られるものの、消化器症状(嘔吐、下痢)が生じることがあります。また、腎臓や肝臓に問題をかかえている場合には投与が難しいケースがあります。近年ではNSAIDsとは異なる作用機序をもつ抗NGFモノクローナル抗体が登場し、慢性的な痛みの管理が向上しました。また、補助的にトラマドール、アセトアミノフェン、ガバペンチン、アマンタジンなどを組み合わせて使用することもあります。
続発性の変形性関節症では、原因となる関節の病気やケガによっては、手術が最適な治療法になることがあります。例えば前十字靭帯の断裂では、手術を行うことで関節の安定性を取り戻し、変形性関節症の進行を防ぐことができます。
進行した変形性関節症では、以下のような手術が検討されます。
手術の適応については、病態や症状に応じて病院で相談しながら決めていくと良いでしょう。
変形性関節症の治療は、症状の重症度や生活の質(QOL)への影響を考慮して決めます。
基本的に続発性の変形性関節症であれば原疾患の治療が優先され、原疾患が手術適応であれば手術を行うのが良いでしょう。一方で、原発性の変形性関節症であれば保存療法によって病気の進行を遅らせることが可能です。