変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy;DM)は、痛みを伴うことなくゆっくりと進行する脊髄の病気です。DMはヒトの筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis;ALS)に類似する病気と考えられています。
初期には後肢の爪をすって歩くようになったり、後肢のふらつき、後肢がクロスしてしまうといった歩様の変化が現れます。DMでは、胸腰部椎間板ヘルニアにみられるような背部痛を伴わないことが特徴です。
その後徐々に後肢の麻痺が生じて起立困難となり、2–3年間かけて麻痺は徐々に前の方に進行します。
前肢まで麻痺が及ぶと四肢麻痺となり、さらに進行して呼吸筋が麻痺すると呼吸不全で亡くなります。発症から死亡するまで個体差はあるものの、約3年間とされています。
DMの原因はいまのところわかっていません。
DMは、常染色体劣性遺伝で、2本で1対である染色体のどちらかに遺伝子変異がある場合に発症リスクが高まるとされています。この遺伝子変異は、タンパク質をコードするSOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)という遺伝子に起こることがあきらかになっています。
DMは、ジャーマン・シェパードに多い病気として最初に報告され、発症年齢は中年齢から老齢(5–7歳)の大型犬種とされています。近年では、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークの報告が増加しており、この犬種の発症年齢は8–11歳とされています。その他には、ボクサーやバーニーズ・マウンテン・ドッグでの発生が報告されています。
確定診断には脊髄の病理学的検査が必要であり、現在のところ生前診断を行うことはできません。したがって、慢性進行性の後躯麻痺を引き起こす可能性のある他の病気を除外することで、臨床診断を下します。
具体的には、血液検査や脳脊髄液検査によって炎症性疾患がないかを確認し、MRI検査で椎間板ヘルニアなどの脊髄を圧迫する病気や腫瘍性疾患などを除外します。さらに血液検査にてSOD1遺伝子変異をもっているかを確認します。
臨床症状がDMによる臨床症状と一致し、上記の検査で他の病気が除外され、SOD1遺伝子変異をペアでもっている場合には、DMである可能性が高いと考えられます。
最近DMの発生が多いウェルシュ・コーギーでは、椎間板ヘルニアが併発していることも多いため、診断は慎重に行う必要があります。
現在のところDM自体の有効な治療方法はなく、病態の進行をゆるやかにするための緩和ケアが治療の主体となります。ゆっくりと病期は進行していくので、病期に応じて生活の質を維持できるようにケアをしてあげることが大切です。
太らないように体重管理を行い、リハビリテーションを積極的に行って筋肉量を維持しましょう。足先を擦って怪我してしまうことがあるので、犬用の靴をはかせてあげましょう。
自力で歩行できなくなってきたら、車椅子の作成を検討しましょう。
尿漏れが起きるようになると、膀胱炎になりやすくなったり、下腹部が尿で汚れて皮膚炎を起こしやすくなるので、オムツをはかせて定期的に交換したり、お腹を清潔に保ってあげることが必要です。
自力で歩行できなくなると、床ずれ(褥瘡)ができやすくなるので、こまめに体位を変えてあげましょう。また、自力でご飯を食べるのが難しくなってきたら、食事や飲水にも介助が必要です。介助でご飯をあげる場合には、誤嚥させないように注意が必要です。
病期が進むにつれてDMのケアというよりも全身状態をしっかりと維持してあげることが必要です。病態の変化はそれぞれ違いますので、診察して治療方針は相談しましょう。