浅趾屈筋腱脱臼

浅趾屈筋腱脱臼ってなに?

浅趾屈筋腱は、アキレス腱(総踵骨腱)の一部で、大腿骨の裏側に始まる筋肉が途中で腱になり、踵骨(かかとの骨)のうしろを通って指先まで続いています。浅趾屈筋腱は、踵骨との間に滑液包(摩擦を少なくするための滑液を含む)を持ち、内側と外側の支帯によって踵骨のうえで安定した運動を行っています。

浅趾屈筋腱脱臼は、外力によって腱を安定化させている支帯が損傷することによって生じます。この損傷は、より支帯の薄い内側に生じることが多く、結果として浅趾屈筋腱は外方へ脱臼します。

浅趾屈筋腱脱臼ってどんな症状がでるの?

歩いたり、走ったりする際に後肢をスキップしたり、完全に後肢を挙上することもあります。
この症状は、膝蓋骨脱臼の症状に類似するので注意が必要です。

浅趾屈筋腱脱臼の原因は?

活動性の高い犬が足を捻った際に内側の支帯を痛めやすいと考えられています。
他には、浅趾屈筋腱がのっている踵骨隆起の低形成などの形態的な異常の関与も指摘されています。

浅趾屈筋腱脱臼が起こりやすい年齢や犬種は?

外傷性の場合には、年齢や犬種に関係なくさまざまな犬で脱臼が生じますが、シェットランド・シープドッグやコリーに多いとされています。

浅趾屈筋腱脱臼はどうやって診断するの?

触診

踵骨のまわりの腫脹が重要な所見です。
浅趾屈筋腱が容易に脱臼と整復を繰り返す場合には、足根関節を屈伸するとポップ音が聴取されます。また、浅趾屈筋腱が完全に脱臼している場合には、踵骨の外側に腱が触知されることが多いです。

レントゲン検査

レントゲン画像には、腱や靭帯は写りませんが、浅趾屈筋腱が脱臼することで生じる軟部組織の腫脹を確認することができます。

超音波検査

超音波検査は、腱や靱帯を描出できる有効な診断ツールです。
浅趾屈筋腱の脱臼をリアルタイムで確認でき、腱鞘内の液体貯留も確認することができます。

正常例
浅趾屈筋腱脱臼例

浅趾屈筋腱脱臼の治療方法は?

治療方法は大きく保存療法と外科療法に分けられます。
診断時に浅趾屈筋腱が正常な位置にあれば保存療法から開始することが多いですが、脱臼位にある場合には外科療法を推奨しています。

保存療法

包帯固定と運動制限を行います。
包帯は2–3週間程度着用し、その後徐々に運動制限を解除していきます。
この過程で症状が再発する場合には手術を検討します。

外科療法

さまざまな方法がありますが、基本的には損傷した内側の支帯の再建を行います。
この部位は皮膚のすぐ下に骨があるため(骨のまわりの組織が少ない)、熟練した術者による手術が望ましいです。

浅趾屈筋腱脱臼の手術の成功率ってどのくらい?

浅趾屈筋腱が脱臼してから手術までの期間が短ければ、予後は良好であることがほとんどです。
浅趾屈筋腱が脱臼したままの場合、まわりに結合組織が形成されて腱の整復位を維持するのが難しくなるため(外科療法の成功率が下がる)、保存療法の可否は治療開始から1–2週間で判断します。
この手術の合併症には、浅趾屈筋腱の再脱臼や皮膚の擦過傷などがあげられます。
踵骨のまわりの腫脹は瘢痕として残ることが多いですが、症状を示すことはほとんどありません。

浅趾屈筋腱脱臼の手術のあとの管理はどのくらい必要なの?

1週間ほど入院し、ロバート・ジョーンズ包帯というやわらかい包帯を2–4週間程度着用します。運動制限は、術後4–8週間程度は継続します。

浅趾屈筋腱脱臼の手術のあとは普通に歩けるようになるの?

浅趾屈筋腱が安定していれば、元気に走り回れるようになることがほとんどです。
手術した部分が自分の組織で安定するまでに約2ヵ月かかるので、初期には運動制限などのご自宅での管理が必要になります。そのあとは少しずつ運動量を元の量まで戻していきます。