手根関節の疾患

手根関節の脱臼・亜脱臼ってなに?

手根関節(手首の関節)は、前腕・手根骨・中手骨から構成される関節で、この関節にある靱帯を損傷することで脱臼・亜脱臼が生じます。
手根関節は大きく橈骨手根関節、手根間関節、手根中手関節に分けられ、それぞれの関節の可動範囲は全体の可動範囲の70%、25%、5%を占めています。
手根関節の靱帯は、内側、外側、背側(正面)、掌側(裏側)の4つの区画に分けることができ、この区画のどこを損傷したかによって手術の適応や術式が決まります。

手根関節の脱臼・亜脱臼によってどんな症状がでるの?

掌側面の靱帯を損傷した場合

外傷後に前肢を完全に挙上することがほとんどです。はじめのうちは患肢を使用しないので、手根関節の過伸展*があきらかになることはありませんが、1週間ほど経過すると患肢をかばったり、ベタ足が目立つようになります。

一方で、特発性または免疫介在性多発性関節炎では、慢性進行性に手根関節過伸展が認められるようになります。

*:手根関節は通常まっすぐな状態(完全伸展位)までしか伸びませんが、それを越えてさらに伸びた状態をさします。

内側または外側面の靱帯を損傷した場合

外傷後に患肢をかばって歩くようになり、受傷から時間が経過しても患肢の使用が改善しないことが多いです。

手根関節の脱臼・亜脱臼の原因は?

落下や転倒などの外傷によって急性に発症することが多いですが、特発性または免疫介在性多発性関節炎では外傷を伴わずに脱臼・亜脱臼が起こります。

手根関節の脱臼・亜脱臼が起こりやすい年齢や犬種は?

外傷性の場合には、年齢や犬種に関係なくさまざまな犬と猫で脱臼・亜脱臼が生じます。
特発性多発性関節炎ではシェットランド・シープドッグに、免疫介在性多発性関節炎ではミニチュア・ダックスフントに多くみられる傾向があります。

手根関節の脱臼・亜脱臼はどうやって診断するの?

触診

手根関節の脱臼が生じている場合には、関節周囲が腫れたり、関節がうまく動かなくなります(関節可動域制限)。靱帯損傷による亜脱臼は、通常のレントゲン撮影では骨どうしの位置関係に変化が生じにくく診断がつきにくいです。そのため、触診で手根関節に伸展ストレスや内反・外反ストレスを加えて関節に不安定がないかを確認します。

レントゲン検査

脱臼があきらかな場合には、手根関節を構成する主要な3つの関節のどこに損傷が生じているかを確認します。靱帯損傷による亜脱臼では、関節周囲が腫れているのが確認できるので、ストレス撮影を行ってどの部分の靱帯が傷害されているかを確認します。

手根関節の脱臼・亜脱臼の治療方法は?

外傷による手根関節の背側面の靱帯損傷以外では基本的に手術が必要です。
橈骨手根関節で脱臼が生じた場合には、全手根関節固定術の適応となります。手根間関節、手根中手関節に脱臼・亜脱臼が生じた場合には、全手根関節固定術あるいは部分的手根関節固定術の適応となります。

関節固定術は、骨どうしを隔てる関節軟骨をすべて削り、プレートで固定してこれらの骨どうしが将来的に癒合するように海綿骨移植を行います。全手根関節固定術は、橈骨から中手骨までの骨をすべて固定するため、手根関節は曲がらなくなりますが、多くの犬はある程度普通の歩行ができるようになります。一方で、部分的手根関節固定術は、可動範囲の広い橈骨手根関節を温存して関節固定を行うため、手根関節の動きはある程度温存できますが、難易度は全手根関節固定術よりも高くなります。

内側または外側面の靭帯を損傷した場合には、靭帯の再建手術を行います。

特発性または免疫介在性多発性関節炎によって手根関節の脱臼・亜脱臼が生じた場合には、装具による安定化を図ることが多いです。特に免疫介在性多発性関節炎による関節の脱臼・亜脱臼に対する外科手術は禁忌とされています。